1月7日 ますます複雑になる小胞体ストレスメカニズム(1月1日 Science 掲載論文)
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1月7日 ますます複雑になる小胞体ストレスメカニズム(1月1日 Science 掲載論文)

2021年1月7日
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小胞体ストレスといえば京大の森さんが明らかにしたストレス感知機構IRE1α分子のリン酸化、その結果起こるXBP1のスプライシングによる活性化、そしてXBP1によりシャペロンなどのERストレス解消に関わる分子グループの転写という経路が中心に来るが、研究が進むにつれこのほかにもPERK経路、ATF6経路が明らかになっている。さらに、それぞれの経路はERストレスを解消する方向の分子を誘導すると同時に、NFkbを介する炎症回路とつながり、最終的には細胞死に至る経路を活性化することもあり、小胞体ストレスの全体像はますます複雑になっている。

今日紹介するMITからの論文はこの複雑性をさらに増大させる分子QRICH1が、小胞体ストレスが細胞死へつながるターミナル過程に関わることを示す論文で1月1日号のScienceに掲載された。タイトルは「QRICH1 dictates the outcome of ER stress through transcriptional control of proteostasis(QRICH1は小胞体ストレスの結果をタンパク質恒常性を転写レベルでコントロールして調節する)」だ。

この研究では細胞株ではなく、マウスの正常腸管上皮細胞を培養し、これをトニカマイシンで処理することでタンパク質の分泌を抑えてストレスをかけ細胞レベルの効果を調べている。面白いのは、この上皮の中に分泌性のゴブレット細胞も含まれている点で、これによりもともと小胞体のキャパシティーの高い分泌細胞と、一般上皮の反応を調べることができる。さらにこの様に異なる細胞種が含まれた系でのストレス反応を調べるため、single cell RNAseqを用いている。その結果、一般上皮ではストレスが長期化するとそのまま細胞死へ移行する一方、ゴブレット細胞ではストレスの長期化にも適応できる転写プログラムを持っていることが明らかになる。

小胞体ストレス経路は極めて複雑なので、それに関わる分子探索も複雑を極めるので詳細は省くが、XBP1のスプライシングを指標としてERストレスを検出する系で、細胞死へ至るターミナル経路へのスイッチに関わるマスター分子QRICH1を特定する。

QRICH1はカスパーゼ活性化に関わる分子であり、小胞体ストレスと炎症を繋ぐ分子としても働くと考え、後半はこの分子に焦点を当てて研究を行なっている。

まずこの分子の発現調節について調べ、小胞体ストレス3経路のうちPERKα経路により活性化されるelF2αによる特殊な翻訳開始点の選択の結果、QRICH1タンパク質の発現が翻訳レベルで上昇することことを突き止める。すなわちQRICH1は小胞体ストレスにより誘導される。

次にこの分子の作用機構について調べ、核内で特定の遺伝子上流に結合して遺伝子発現調節に関わること、そしてこうして転写が促進される分子の多くが、タンパク質合成や分泌に関わる分子であることを発見する。そして、ストレスが続いた細胞でさらにタンパク質合成を進めることで、さらなるオーバーロードにより細胞をターミナル経路へと誘導することを明らかにする。

以上が結果で、QRICH1と炎症経路との直接の関係は明確にはしていないが、普通ならストレスを解消する方向で働く小胞体ストレス経路が長く活性化されると、ストレスを上昇させるQRICH1を中心とするメカニズムが働き、最終的にインフラマゾームの形成から細胞死へと導き、厄介な細胞を速やかに殺しているというシナリオだ。

健全な細胞だけで社会を維持しようとする非情な掟を改めて認識した。

カテゴリ:論文ウォッチ