1月21日 うつ病の脳内刺激治療を個別化する (1月18日 Nature Medicine オンライン掲載論文)
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1月21日 うつ病の脳内刺激治療を個別化する (1月18日 Nature Medicine オンライン掲載論文)

2021年1月21日
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うつ病の治療として、脳領域を直接電気的に刺激する深部脳刺激や、あるいは外から電磁場を照射する経頭蓋磁気刺激療法が使われる様になり、薬剤の効果が全く見られない症例に効果があることが分かってきた。ただ臨床治験で効果が見られたからといって、決まった場所に電極を留置する方法では、極めて多様性の高い脳の病気では、結局効くかどうかやってみないとわからない。

この精度を上げるため、電極を挿入する場所を、電極を留置する手術中に刺激を繰り返しながら患者さんの反応を記録し、最適な場所に留置する方法が始められている。今日紹介するカリフォルニア大学サンフランシスコ校からの論文は、刺激に対する脳の反応を徹底的に調べれば最適の脳刺激治療が可能か、実際のうつ病患者さんで調べた研究で1月18日Nature Medicineオンラン版に掲載された症例報告だ。タイトルは「State-dependent responses to intracranial brain stimulation in a patient with depression (うつ病患者さんでの状態に応じた脳内刺激に対する反応)」だ。

この研究の目的は、うつ病患者さんの脳の様々な場所を刺激して、うつ病に関わる気分の変化を見ることで、新しい刺激の方法を探ることだ。このために、脳の外から針を何本もさして、この研究では160箇所の電気信号を拾うとともに、その場所を刺激できる様にして、10日間病院で観察している。また、針を刺した場所は、眼窩前頭皮質、扁桃体、海馬、内包前脚腹側、腹側線条体、前帯状皮質と徹底している。

あらゆる治療に抵抗性で、長期の鬱状態を繰り返し、自殺の心配がある重症のうつ病であるとはいえ、これほどの数の電極を留置して、10日間も過ごすなど、我が国ではほとんど許されない様に感じる。

しかしこの10日間で、様々な場所に100Hzと1Hzの異なる周波数で刺激を加えながら患者さんの自覚的な訴えと、医師の判断を総合して、刺激の効果を検証している。その結果が、図でまとめられているが、膨大なものだ。ただ、これまでうつ病に対して電極が挿入されていた眼窩前頭皮質を始め、内包前脚腹側、腹側線条体、前帯状皮質の刺激で明確な反応が記録されている。例えば眼窩前頭皮質刺激により患者さんは「静かに本を読んでいる喜び」、また内包前脚腹側、腹側線条体の刺激では、「ウズウズする喜び」が得られたと述べている。

これらの反応は再現性が高いが、その領域の活動状態と刺激のタイミングが重要であることもわかっている。例えば、眼窩前頭皮質の刺激の場合、脳の活動が高いときに1Hzの刺激を行うと鎮静効果があるが、活動が低いときに1Hz刺激を行うと余計お落ち込む。逆に前帯状皮質では、活動が低いときに100Hz刺激を行うと、気分が改善するが、もともと高いときに刺激すると逆効果になる。実際にはこの様な記録を、1回10分の刺激を行うというプロトコルで、各電極について詳しく行い、膨大な結果が集められている。

話はこれで終わりで、この結果の最適治療とは何かについては全く述べられていない。ただ、私自身膨大なデータについて全て目を通しているわけではないが、脳に電極を挿入して患者さんの反応を見るという古典的な方法を近代化して、感情や気分といった人間特有の脳活動について調べられたということに感動すら覚える。

ペダルを踏むと気持ちが良くなる刺激を扁桃体に送ると、ネズミはペダルを踏み続けるという実験があるが、考えてみるとこの研究はうつ病の治療に同じ方法を用いようとしていることもよくわかる。とすると、これが本当の治療につながるのか、ペダルを踏んで症状をとるだけで終わるのか、知りたいところだ。もし対症療法効果しかないなら、うつ病を克服するということが、脳内で新しい回路を形成し直して、気分の回路を新しく支配するという大事業であることがわかるはずだ。

カテゴリ:論文ウォッチ