1月30日 コウモリはどうしてウイルスの運び屋になれるのか?(1月21日号 Nature 掲載総説)
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1月30日 コウモリはどうしてウイルスの運び屋になれるのか?(1月21日号 Nature 掲載総説)

2021年1月30日
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考えてみると、バンパイア伝説は、今人類が直面するウイルス性のパンデミックと重なるところが多い。伝説ではバンパイヤとヒトとの接触が、ヒトを吸血ゾンビに変化させ、今度は人から人へと広がる。そして何よりも、バンパイアにはSARSウイルスなどのコロナウイルスや、エボラウイルスなどの運び屋コウモリが擬人化されている。

以前紹介したが、17世期ポーランドの村では村で最初に疫病にかかった人をバンパイアと考えて、特別に埋葬した(https://aasj.jp/news/watch/2490)。とすると、コウモリが伝染病を媒介することを経験的に予感していた可能性すらある。そして今やこの可能性は事実となり、コウモリとウイルスの関係に科学的メスが入れられている。

今日紹介したいのは、デューク大学とシンガポール国立大学が協力してシンガポールに設立した医科大学と浙江大学が共同で発表した、まさにタイムリーな総説論文で、どうしてコウモリがウイルスのキャリアーになるのかがうまくまとめられていた。タイトルは「Lessons from the host defences of bats, a unique viral reservoir(特殊なウイルスキャリアーとしてのコウモリの宿主防御機能から学ぶ)」で、1月21日発行のNatureに掲載されている。

総説はまずコウモリの生物学から始まっているが、読んでみてなんとすごい生き物かということが理解できた。しかも、この特殊な性質が、コウモリとウイルスの不思議なバランス関係を成立させている。

まず驚くのは、種によっては2000万匹にもなるコロニーサイズで、おそらく人間と家畜・ペットを除くと破格の数の集団だが、繁殖率は低めで、雑食だ。かなり人間に近いが、驚きはさらに続く。なんと記録が残る寿命は43年以上で、小型哺乳動物としてはハダカデバネズミを超えて最長を誇っている。一方、運動能力では人間の比では無い。空を飛べるだけではない。そのために、体温を41度以上に高め、さらに心拍数はなんと1分に1000回近くまで上昇する。要するに、抗老化には最悪の高い代謝を維持しながらも、長寿を達成するという羨ましい存在と言える。

ただ、空を飛べて、長寿でもウイルスのキャリアーにはなれない。一番重要なのは、ウイルスに対する免疫機能がどうなっているかだ。多くのウイルスは動物により媒介されるが、ウイルス感染後、当然自然免疫が誘導され、動物も何らかの症状を示す場合が多い。Covid-19で言えば、ハクビシンやミンクにも感染するが、この場合必ず何らかの症状を示す。これに対しコウモリはエネルギー代謝に影響する特殊なウイルスで重症化・死亡する例外はあっても、ほとんどのウイルスに感染しても、無症状のことが多い。ある意味で、ウイルスが共存できるのは特殊な免疫システムがあるからだ。

PubMedで調べてみると、パンデミック理解にこれほど重要なコウモリの免疫機能に関する論文はようやく1000を越したところで、あまり研究費が回っていなかったと思う。しかし、この総説を読んでみると、新型コロナに関わらず、十分研究価値が高い哺乳動物なのがわかった。

コウモリのウイルス免疫(特に自然免疫)機能を一言でまとめると、1型インターフェロンに代表される防御機構が、ウイルス感染にかかわらず、高いレベルで維持されている。エボラウイルスやコロナウイルスは、感染初期から1型インターフェロンシグナルを抑える仕組みを何重にも持っているが、コウモリを運び屋にする中で培ってきたのかもしれない。いずれにせよ、最初からインターフェロン防御を高めることで、感染量を低下させることができる。

とは言え、エボラウイルスやコロナウイルスをコウモリに感染させるとウイルス量は最終的に極めて高いレベルに到達できる。これは、ウイルスがインターフェロンをすり抜ける仕組みがあるからだが、なぜ症状が出ないのか?

驚くことに、コウモリでは、いわゆるインフラマゾームを活性化して炎症を誘導する機能が低下している。というより欠損していると言っていいのかもしれない。というのもコウモリだけが、細胞内のDNAを感知してインフラマゾームを活性化するために働く、AIMなどのPYHINファミリー遺伝子が完全に欠損している。完全に欠損しているのは、これまで調べられた哺乳動物の中ではコウモリだけらしい。この結果、ウイルス感染が起こっても、細胞死や、組織全体を巻き込む炎症が起こりにくい。さらに、caspase IやIL-1βシグナル自体を抑える機構も備えており、種によっては免疫性の炎症に関わるTNFシグナルも低下している。この結果少々ウイルスが増加しても、炎症が起こることはほとんどない。

要するに、ウイルスへの自然免疫と、炎症を切り離してしまった結果だが、この間に、獲得免疫系が誘導され、ウイルスのさらなる感染は抑えられれば、最終的に感染は収束する。残念ながらこの総説では獲得免疫については、コウモリのMHCが長いペプチドを認識できる以外に紹介されておらず、モデル動物以外の研究の難しさがわかる。

なぜ細胞内の核酸を認識して自然炎症を誘導する仕組みが欠損したのかについては、おそらく平常時の30倍にも代謝を上昇させたときにおこる、細胞内ストレスや生成したDNA断片は自然炎症を誘導してしまうので、これに対応するため、インフラマゾームによる炎症プロセスを抑える仕組みを進化させたのではと議論している。また、炎症を抑える仕組みを獲得したことで、高い代謝を維持しながらも長寿を達成できたのだろう。

いずれにせよ、ある程度初期の感染量を抑える定常的自然免疫と、ウイルスへの自然免疫反応を抑えることができる仕組みがあれば、無症状のままウイルスと共存できることを、コウモリは見事に示している。この教えをいかにサイトカインストーム治療に生かすことができるか、covid-19だけでなくこれから経験する多くのパンデミックを乗り越える鍵になると思う。

最後に私の妄想で聞き流してほしいが、この様なウイルスとの共存を可能にする免疫システムは、コウモリで選択的に進化してきた証拠があるらしい。だとすると、コウモリはウイルスの運び屋になることで、疫病を運んで人間を近づけない様にしてきたのかもしれない。ただ、間違ってもコウモリ全滅計画などと騒がないでほしい。コウモリの平和を乱しているのも人間だということを忘れてはならない。

カテゴリ:論文ウォッチ