1月13日 生姜が血管炎に効く?(12月29日 JCI Insight オンライン掲載論文)
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1月13日 生姜が血管炎に効く?(12月29日 JCI Insight オンライン掲載論文)

2021年1月13日
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この前zoomで中学校の同窓会をしていたら、茶カテキンが新型コロナウイルスに効果があることを産経で読んだので、感染予防目的で飲んでいると聞いて驚いた(飲むこと自体に問題はないが)。これは大阪府の吉村知事がポピドンヨードでうがいすれば重症化が防げると言って批判の的になったのと同じで、口内のウイルスを減らすということと、気道を通した感染による肺炎を単純に結びつけたことに間違いがある。もし本当に臨床効果があれば、間違いなく全国の待機感染者に勧められているだろう。メディアが断片を結び付けて、素人を騙している典型で、最後は記者発表した大学のせいにして後は知らん顔なのだろう。

ただ、口内のウイルス量を減らす効果があれば、ヨードもカテキンも捨てたものではない。すなわち、他の人にウイルスを感染させる最大の原因は唾液由来の飛沫だとすると、人と会う前にうがいをしたりお茶を飲んでウイルスが減るなら、完全とは思はないが、うつさないという点では少しは効果があるだろう。とすると「他の人に感染させない」という思いやりの心を強調して記者発表したり、報道することが必要だと思う。

今日紹介するワシントン大学からの論文は、一種の民間療法も、科学的に検証し、使い方まで明示すれば、立派な医学になることを示した研究で、少し軽めの論文紹介として取り上げることにした。タイトルは「Anti-neutrophil properties of natural gingerols in models of lupus(自然のgingerolが示すループスマウスモデルでの抗好中球活性)」で、JCI Insightというレッキとした医学雑誌に12月29日オンライン出版された。

この研究は生姜のエキスが炎症を抑える効果があるという民間療法からスタートしている。研究自体は、生姜から分離したgingerolと呼ばれる有機化合物が、白血球の炎症による血管炎を防止して、SLEの様な自己免疫性の血管炎を抑えるはずだという仮説に基づいている。

これを確かめるために、以前紹介した白血球がパンクする現象NETosis(https://aasj.jp/news/watch/14242)をエンドトキシン処理などで誘導し、gingerolがNEtosisを抑制できるか調べ、10μM程度で強く抑制できることを示している。

次に、この効果の作用機序を調べ、活性酸素産生が抑制されること、そしてこれらの変化は、Phosphodiestraseを阻害することでcAMPの濃度が高まることによる結果であることを示している。

作用機序はここまでで、後はTLR7を刺激する物質を皮膚に塗布し続けることで誘導される自己免疫性の血管炎を抑制する実験を行い、

  • gingerol腹腔内投与によりNEtosisを体内でほぼ完全に抑えること、
  • 全身性の自己免疫反応の結果起こる、抗DNA抗体などの自己抗体の出現を抑えられること、
  • 自己抗体による血栓形成を抑えられること、
  • 同じ効果は、phosphodiesterase阻害剤rolipramでも得られる。

ことを示している。すなわち、生姜エキスが白血球の炎症を抑えることで、ループス型の自己免疫病を抑えることができるという結果だ。

論文としてはこれだけで、古典的な薬理実験と言える。ただ好感が持てるのは、一般的に生姜サプリに用いられている量でこの実験を行っていること、経口で投与しても血中に到達できることなどを議論した後、それでも薬剤として使うのではなく、サプリメントとしてリスクを下げる方向で治験を行う方向を示している点だ。最終的には治験が終わって初めて評価ができるので、アウトカムを明示した治験を目指すという点が重要だ。

最後に個人的な印象を述べておくが、戯言と受け取ってほしい。ここで扱われた、NEtosis、抗phospholipid自己抗体による血管炎、血栓症などは、まさに新型コロナの重症化因子になっている点だ。その意味で、重症化防止のための治験を計画してもいい様な気がした。

カテゴリ:論文ウォッチ