1月3日 RNAワクチンとアナフラキシー (12月31日 The Journal of Allergy and Clinical Immunology: In Practice オンライン掲載論文)
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1月3日 RNAワクチンとアナフラキシー (12月31日 The Journal of Allergy and Clinical Immunology: In Practice オンライン掲載論文)

2021年1月3日
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正月3番目の話題はCovid-19、それも接種が進むRNAワクチンの副作用についての総説を選んだ。

オバマ、ブッシュ、クリントン前大統領がワクチン接種を受ける報道が流れたり、流石に画面にはでないがエリザベス女王夫妻がワクチンを受けることが発表されたりするのを見ると、ノブレスオブリージュが今も生きていることを感じる。ワクチンには当然副反応がある。しかし、それを知るためには人間への接種を繰り返す以外に方法はない。こんな時安全性を確かめるためにも、率先してリスクを取るのは、身分が高い人の務めであるという文化だと思う。

幸い率先してワクチン接種を受けるところを公開したみなさんには何も起こらなかった様だが、すでに100万近い接種者の中にはアナフィラキシー反応を起こしたケースが報告される様になっている。しかも、例えばインフルエンザワクチン(おおよそ100万人に1人)と比べた時、10倍の頻度で(おおよそ10万人に1人)、早速接種後15分は様子を見ること、ショックと判断した場合はエピネフリンを注射すること、そしてこれまで強いアナフィラキシーを経験している人は、接種を避けることというガイドラインが示された。

1月1日号のScienceによると、米国国立アレルギー感染症研究所では数回の専門家会議を開き最も可能性の高いアレルゲンがポリエチレングリコールであると結論したことが紹介されている。

おそらくこれらの会議で、議論の内容をワクチン接種の現場、医療従事者、そしてこれからワクチンを受ける一般の人たちへ、情報提供することが決まったのだと思う。

その結果、The New England Journal of MedicineとThe Journal of Allergy and Clinical Immunology: In Practiceにハーバード大学を中心に米国の大学のグループが2つの総説を発表し、RNAワクチンにより起こりうるアナフィラキシーの原因と対応を詳しく述べている。

内容は基本的に同じなので、より詳しく対応策を示している後者の総説をまとめておく。

  • 治験でのアレルギー反応:ファイザーもモデルナも第3相の治験では、アレルギー歴のある人を省いている。ただ、ワクチン注射に過敏性を示した人は0.5-1%存在するが、偽薬群と比べてほとんど差はない。1人、注射1−2日後に唇が腫れた人が出たが、美容整形目的の皮下注射を受けている人で、それ以外はアレルギー反応は見つかっていない。
  • 規制当局のガイドライン:それぞれのワクチンにはRNA以外に様々な化学物質が含まれており、これらに対するアレルギー反応を示す人は最初から除外することを勧めている。また、アナフィラキシーは15分以内に発症するので、15分経過観察を義務付けている。(アナフラキシー歴のある医療従事者が接種を受けたことが報道されているが、これは覚悟して接種を受けたことになる)。
  • 一般接種開始後の発症者:総説の書かれた時点で200万回の摂取に対して10例のアレルギー反応が米国で観察されているが、全て15分以内に反応が起こり、治療を受けている。いずれにせよ頻度は高い。
  • 原因:通常ワクチン接種後のアレルギー反応は、ワクチン成分そのものではなく、それをデリバーしたり、溶かしたりする分子に対して起こる。RNAワクチンに使われるmodified RNAは自然免疫誘導能を下げてはいるが、一定の自然免疫は誘導されるので、これで倦怠感や発熱などの一般的な副反応を説明できる。両社のRNAワクチンの場合、アナフィラキシーの原因を洗っていくと、もっとも可能性が高いのがポリエチレングリコール(PEG)に行き着く。これはRNAを包んでいるリポソームを安定化するために加えられており、ワクチンに使われるのは初めてだが、注射薬、化粧品、食品などに広く含まれており、すでにアレルゲンに触れている可能性は高い。事実PEGに対する抗体は広く検出されるし、アナフィラキシーの報告もある。
  • 他の会社のワクチン:PEGはファイザー、モデルナに使われているが、よく似た安定剤Polysorbateは認可を待つアストラゼネカ、ヤンセンのワクチンに用いられているので、これらのワクチンについても同じ様なアナフィラキシーは想定できる。
  • IgE以外の経路: PEGの場合、すでに感作されIgEができていなくとも、補体の活性化を通じて直接マスト細胞を活性化する可能性が指摘されている。また補体活性化による、擬似アレルギー反応も起こる可能性がある。これについてはすでにリポソームで包んだ薬剤投与で経験されている。
  • 対策:ワクチン接種の現場で詳しい病歴などを聴く余裕はない。また、PEGに対する皮下テストも実施不可能。とすると、まず接種場所に来る前に自分で危険性を評価してもらう必要がある。

そのために、

  1. 以前注射を受けた時強いアレルギー反応が起こらなかったか?
  2. ワクチン接種でアレルギー反応が起こった経験はないか?
  3. 食べ物、ハチ刺され、ラテックスに対してアレルギー反応を起こしたことがあるか?
  4. PEGやPolysorbateを含む注射に対するアレルギー反応の経験はあるか?

の質問をあらかじめして、この答えから、高リスク、中等リスク、低リスクに分けて、ワクチン接種回避を含めた対策を指示しておく。実際には、全てNOの場合はワクチン接種後15分は経過観察、1−3のうち一つでもYesの場合は30分経過観察、2つ以上、あるいは4にYesの場合はアレルギー診断医の判断のもと接種を受けるかどうか決めることを勧めている。

他にも、アレルギーと思われる反応が起こった時など、現場の医師に対する詳細なガイドラインが示されており、是非一読をお勧めする。また、ワクチン接種実施に際して、アレルギー専門医の強いコミットメントも求めており、医学会全体でワクチン接種で犠牲者を出さないという決意が示されている。ただ、長くなるので割愛して、それぞれのガイドラインについては4日昼12時からYoutubeで緊急の配信を行うことにする(https://www.youtube.com/watch?v=GazBE_fhZTs)。

折しもモデルナ社の第3相治験の結果が発表された。報道されている様に95%の有効率だが、それ以外にも重傷者はワクチン接種群で0という結果も重要だと思う。また、2回接種プロトコルだが、1回目から効果はある様だ。

我が国の場合最終的に受けるかどうかは、接種を受ける人が自分で判断することになるが、それでもこれから始まる接種事業は何千億もの国家事業だ。この事業遂行にあたって一般の協力は必須だ。この時、みなさんの判断を専門家の意見で誘導するのではなく、本当に自分で判断してもらうための共有可能な科学知識とは何か、この機会を捉えて考えてほしいと思う。差し迫った知識共有としては、なんと言ってもアナフィラキシーを含む副反応情報が求められるだろう。そのためには、アナフィラキシーのリスクなどがかなり正確に判断できるスマフォのアプリの作成など、できることは徹底的に行えばよい。新しいIT国家にとって素晴らしい課題だと言える。もちろん、今からでも遅くないので、ワクチン接種に向けた臨戦組織をできるだけ早く準備する必要があるだろう。

欧米の結果を見てから判断したら良いと言った意見を報道している我が国のメディアも存在する様だが、他人任せでは決して次のパンデミックに備える体制は確立できない。ぜひ国をあげて、ワクチン接種の我が国独自の方式を編み出してほしい。実際、この2社にとどまらず、これから多くのワクチンが市場に出回る。これらを適切に選んで、個人に合わせたワクチン接種すら可能になるだろう。それがwithout コロナ時代のニューノーマルだと思う。

カテゴリ:論文ウォッチ