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12月8日 ハンチントン病は神経発生異常を伴う (11月17日 Neuron オンライン掲載論文)

2021年12月8日
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論文を頑張って読んでいても、専門に研究しているわけではないので見落としていることは多い。今日紹介するフランス・グルノーブル大学から発表された、ハンチントン病が発生初期から始まっていることを示す論文を読んで、自分の頭の中でもう一度この病気の病態を考え直す必要があることを思い知った。タイトルは「Developmental defects in Huntington’s disease show that axonal growth and microtubule reorganization require NUMA1(ハンチントン病の発生異常から軸索伸展と微小管再構成にNUMA1が関与することを明らかにした)」で、11月17日Neuronにオンライン掲載された。

繰り返すが、ハンチントン病はハンチンティン遺伝子(HTT)の中に存在するCAGリピートが神経細胞死を誘導して起こる進行性の運動、認知障害だが、発症は脳が完全に形成されてから起こると思っていた。事実、平均的な発症時期は30歳を超してからだ。

しかし、病理的な研究からハンチントン病(HD)患者さんでは、発生時期に形成される外側溝の非対称性が見られ、実際には発生異常も起こっているのではと考えられていたようだ。

この研究は、マウスモデルを用いHDの発生異常を探り、さらにその分子メカニズムを明らかにしようとするチャレンジングな研究で、まずHD病では発生時期の神経軸索伸展が抑制されているという仮説に基づき実験を始めている。

胎児期に片方の皮質神経をラベル、反対側への軸索伸展を計測すると、HDマウスでは明らかに伸びが鈍化している。同じ軸索伸展抑制は、試験管内でも再現できるが、細胞学的にしらべるとこの原因が軸索伸展部位での微小管の束が低下していることと相関することを発見する。すなわち、アクチンではなく微小管再構成の異常がHD遺伝子により誘導されていることを明らかにしている。

この研究のハイライトは、軸索伸展部位に集まる分子の中から、HDで発現が低下して微小管再構成異常に関わるNUMA1を特定したことだ。さらにこの分子は、マイクロRNA,miR-124の支配を受けており、HDでmRNAが低下するとともに、オートファジーによる分子分解過程が高まることでNUMA1タンパク質の発現量が低下していることまで明らかにしている。すなわち、これら2つの過程は創薬ターゲットになる。

最後に、NUMA1発現を低下させることで、HDの発生異常を再現できること、さらにNUMA1を発現させることで、HDマウスの発生異常を改善できることまで示し、この目的にmiR-124抑制する合成RNAを生後注射すること、あるいは微小管安定化抗ガン剤エポチロンを投与することで、HD発生異常を正常化できることまで示している。

以上、

  1. HD発生異常が神経軸索伸展異常であること。
  2. この異常が微小管再構成過程の異常であること。
  3. 微小管再構成にNUMA1が関わり、これがHDで低下していること。
  4. そして、様々な方法でNUMA1を正常化、あるいは微小管再構成を安定化させることでHD発生異常を抑えることが出来ること。

と盛りだくさんの結果が集まった、力作だと思う。今後、成人後に発症する過程と、発生異常との関わりを明らかにすることが重要だと思うが、私のHDに対する理解を一新する面白い論文だと思う。

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