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12月16日 トランスポゾン活性化が炎症を起こすメカニズム(12月3日号 Science Immunology 掲載論文)

2021年12月16日
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炎症はもともと症状で定義された病理学的概念だ。その後、原因によって炎症が考えられるようになり、細菌やウイルスによる炎症概念が確立していった。しかし、炎症の症状は感染がなくても起こる。わかりやすいのは、外傷で起こる炎症で、その原因を探っていくと、細胞内寄生バクテリア、ミトコンドリアが壊れて、細菌と同じようにDNAやformyl peptideが遊離されて、TLR9とformyl-peptide receptorを刺激することがわかった。すなわち、内因、外因を問わず、同じメカニズムで炎症が起こる。

この概念がさらに拡大させたのがインフラマゾームの発見で、外部からのバクテリアに限らず、DAMPと呼ばれる内因性の様々な分子(自由脂肪酸まで含まれる)このインフラマゾームを活性化して炎症を誘導することが明らかになった。その結果、動脈硬化、糖尿などの生活習慣病から老化に至るまで、炎症という枠内で捉えることが可能になった。

外因性および内因性の炎症刺激物質をそれぞれPAMP、DAMPと名付けているが、今回Covid-19感染で問題になったRNAウイルス(=PAMP)と同じように炎症を誘導する内因性のRNA(=DAMP)も存在することがわかっている。特に、内因性のトランスポゾンが活性化されると、炎症を誘導してSLEや黄斑変性症が起こることが知られている。

今日紹介するバージニア大学からの論文は内因性トランスポゾン由来RNAがインフラマゾームを活性化する機構を解明した研究で12月3日Science Translational Medicineに掲載された。タイトルは「DDX17 is an essential mediator of sterile NLRC4 inflammasome activation by retrotransposon RNAs(DDX17はレトロトランスポゾンRNAによるNLRC4インフラマゾームの活性化に必須の因子)」だ。

地味だが堅実に実験を積み重ねるタイプの研究で、トランスポゾン由来RNAを導入した時に誘導されるインフラマゾーム活性化のメカニズムを丹念に追いかけている。詳細を省いて結果をまとめると次のようになる。

内因性のトランスポゾンが活性化され、RNAが転写されると、これにRNAヘリカーゼDDX17が結合し、この複合体がインフラマゾームの核になるNLRC4とNLRP3と結合する。このRNA-DDX17複合体が、NLRC4インフラマゾームにNLRP3インフラマゾームを引き込む機能を有している。ただ、このインフラマゾーム複合体形成に必要なASC分子のリクルートを誘導する引き金は、外因性のPAMPで誘導される場合と異なり、NAIP分子は利用されず、逆にPAMPではめったに利用されないPKCδ活性化経路が利用され、ASCがリクルートされる。

重要なことは、この経路は通常のウイルスRNAとは反応しない点で、内因性トランスポゾン由来RNAで炎症が誘導されるには特別なメカニズムが備わっていることがわかる。

最後に、SLE患者さん、黄斑変性症の網膜色素上皮を調べ、トランスポゾンRNAが誘導されていること、PKCδ活性が高まってNLRC4のリン酸化が見られること、インフラマゾーム形成部位にこれらの分子が見られることなどを示し、実際にここで示された結果が起こっていることを示している。

以上が結果で、トランスポゾンはDAMPとして、炎症の原因になることがよく理解できた。この研究はほんの一例だが、今炎症研究は目が離せないほど面白い。

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