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12月19日 骨髄腫に対するCAR-T治療後の神経変性(Nature Medicine 12月号掲載論文)

2021年12月19日
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Nature Medicineが選んだ今年の10大ニュースの最初が、CAR-T治療が骨髄腫にも拡大されたというニュースだった。今年の3月The New England Journal of Medicine(384:705)、140人の再発や治療の難しい骨髄腫患者さんを用いた第2相の試験で、なんと73%のレスポンスが見られ、そのうち33%は完全寛解を経験したというめざましい結果だ。他にも7月には、同じ抗原を標的にした異なるCAR-T治療がThe Lancet に発表され、こちらはレスポンスが97%、完全寛解が67%と驚くべき結果だった(The Lancet 398,314)。 このとき標的に使われた抗原が、B cell maturation antigen と呼ばれるTNFファミリー分子で、これまで抗体薬としても使われ、骨髄腫治療に最適と選ばれている。このときの副作用としては、一般的なサイトカインストームとともに、白血球減少、貧血、血小板減少などが指摘されるとともに、18%に神経症状が指摘されていた。

今日紹介するマウントサイナイ医学校からの論文は、7月に報告された方の、B cell maturation antigen(BCMA)を標的にしたCAR-T治療を受けた患者さんの一人が、進行するパーキンソン病様の運動障害を発症し、亡くなったことを報告し、人によってはBCMAが脳で発現する可能性を示した重要な論文で、Nature Medicine12月号に掲載された。タイトルは「Neurocognitive and hypokinetic movement disorder with features of parkinsonism after BCMA-targeting CAR-T cell therapy(認知症とパーキンソン病様の運動能低下がBCMAを標的とするCAR-T細胞で誘導された)」だ。

これは一例報告で、神経症状が副作用として現れた患者さんで同じことが起こっているのかわからない。

この患者さんは、サイトカインストーム症状は比較的長引いたようだが、2ヶ月前に退院している。しかし、101日目には運動障害が認められ、震え、さらに記憶障害が起こり、脳に強い変性があることが認められる。運動障害はパーキンソン病に似てはいるが、ドーパミン治療は全く効かず、広範囲で脳の活動の低下が見られている。

最も驚くのは、末梢血中のT細胞のほとんどがCAR-Tで閉められるようになったことで、実際にメモリー型のT細胞が発生して、大量のCAR-Tが作られるようになってしまっている。そして、脳脊髄液にもCAR-Tは認められ、脳への浸潤が疑われた。最後の手段として、CAR-T増殖を抑えるため、抗がん剤の投与が行われ、少し効果は見られたが、患者さんは162日目に亡くなっている。

解剖では、リンパ球浸潤と、グリア細胞の増殖が認められ、脳で炎症が広く起こっていることがわかる。そして、一部の神経細胞とアストロサイトでBCMAの発現が認められ、これにCAR-Tが反応して脳症状が発生したことが結論された。

以上のことから、

  1. 脳でもBCMAが発現していること、
  2. CAR-Tは脳血管関門を超えて脳に浸潤できること

が明らかになり、この治療を受けるときに、必ず同じ危険は覚悟する必要がある。面白いことに、3月に発表されたide-cellではまだ同じ報告はなく、さらにリスポンスも低いことから、ひょっとしたら抗原へのアフィニティーを変えれば、反応は落ちるが、副作用は防げるのかもしれない。

これまでガンに対してメモリー型の細胞の出現を望むことも多かったが、この例を見ると、それもほどほどであることもわかった。しかし、この症例でこれほどのメモリーが形成された原因は是非知りたい。

いずれにせよ、ide-cellとcita-cellの治験の長期予後をさらに注視する必要がある。

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