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12月15日 ALSでの神経死に関わるTDP-43フィラメントの分子構造が明らかになった(12月8日 Natureオンライン掲載論文)

2021年12月15日
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多くの神経変性性疾患が、細胞内のタンパク質沈殿により誘導されることは、広く認められるようになっている。ハンチントン病のような遺伝的異常(CAGリピート)によるものに限らず、アルツハイマー病ではTauタンパク質、パーキンソン病やレビー小体認知症ではαシヌクレインの細胞内沈殿が見られる。

同じように、運動神経の麻痺が進行的に進む筋萎縮性側索硬化症(ALS)や、行動異常を示す前頭側頭型認知症の一部では、TDP-43と名付けられたRNA結合タンパク質の沈殿が起こることが知られており、この沈殿構造の解明が待たれていた。

今日紹介するケンブリッジ大学からの論文はTDP-43の細胞内沈殿の構造をクライオ電顕で解読した研究で、12月8日Natureにオンライン掲載された。タイトルは「Structure of pathological TDP-43 filaments from ALS with FTLD(ALSと前頭側頭葉変性症が合併した患者さんからの病理的TDP-43フィラメントの構造解析)」だ。

論文には都立臨床研と愛知医科大学の研究者が共著者で参加しており、コントリビューションを読むと、2人のALSとFTLDが合併した患者さんからTDP-43フィラメントを調整したのは都立臨床研の長谷川さんになっていることから、日本人患者さんのサンプルから調整されたフィラメントではないかと推察する。この研究が、このTDP-43フィラメント精製なしにあり得ないことを考えると、貢献は大きい。

患者さんはALSを誘導するC9orf72のGGGGCCリピートが見られるものの、TDP-43遺伝子には全く変異は存在しない。すなわち、正常のTDP-43が沈殿を起こしている。この沈殿の核になっている構造は、タンパク質分解酵素に抵抗性で、フィラメントを精製後、タンパク質分解酵素処理した後に残る分子をクライオ電顕で解析している。実際には282番目から360番目までの78アミノ酸からなるコンパクトな構造が、フィラメントの核になっている。

タンパク質構造解析には疎い方なので、個人的に重要と思った結果を以下に紹介しておく。

  1. 異なる患者さん、前頭側頭皮質と運動皮質という異なる領域から精製されたTDP-43フィラメントの構造は完全に一致しており、この構造が神経変性の鍵を握ると考えられる。
  2. 疎水性の中心が、グリシンの多い領域と、グルタミンアスパラギンの多い領域で囲まれた平板な構造を形成し、この平板な構造が積み重なって、右回りのらせん構造をとって、フィラメントができあがっている。同じ構造のフロアーがらせん状に積み上がった高層ビルディングとも言える構造は極めて美しい。
  3. 試験管内でTDP-43の沈殿を形成させる研究が行われていたが、この構造と生体内で出来た構造とは全く異なる。
  4. Tauやシヌクレインのような、長いβ鎖を使って起こる重合とは全く異なるメカニズムの重合が起こっている。実際に、アルツハイマー病やパーキンソン病でもこの構造が発生することが指摘されており、TDP-43はこれらの病態に深く関わる可能性がある。
  5. ALSの発症を早めるTDP-43分子の24種類の突然変異のうち、18種類がこのコアで起こっており、この構造が形成されるプロセスの理解につながる可能性がある。
  6. 病型の異なる前頭側頭葉変性では、タンパク質分解酵素に対する異なる感受性があり、これもこのコア構造が形成される過程理解の手がかりになる。

以上が重要と思った結論だが、構造が明らかになったことで、今後はこの特殊な構造が縦走するメカニズムの解析が進むと思われる。その意味では、試験管内でこの構造を形成させる系の確立が必要だが、相分離から繰り返し構造が形成されるという生命発生過程と共通する面白い過程だ。もちろん、ALS治療法開発にも大きく貢献すると期待している。

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