トップジャーナルでもたまには気楽な論文が掲載されることがある。今日から2回に分けて、クリスマスNature, Scienceに掲載された、気楽に読める論文を紹介しようと思う。
まず最初は、フランス モンペリエ大学を中心の国際チームから12月22日Natureにオンライン出版された論文で、動物園に残る記録を元に、様々な哺乳動物のガン死のリスクを調べた研究だ。タイトルは「Cancer risk across mammals(哺乳動物のガンリスク)」だ。
このHPでもなぜ象にガンが少ないのか(https://aasj.jp/news/watch/8808)などの論文は紹介したことがあるが、個別の動物についての研究で、哺乳動物全体の傾向を調べる論文というのは初めてだ。考えてみると、これは簡単なことではない。野生動物の寿命を正確に調べることは多大な努力が必要だ。ましてや、ガンの発生やそれによる死となると、さらにハードルは高い。
野生を追いかけることをやめ、正確なレコードがある動物園の動物に限って、ガン死のリスクを調べることにしたのが、この研究の特徴だろう。なぜ今まで同じような研究が着想されなかったのか不思議なぐらいで、この研究で集めたレコードは、191種、110148個体と10万を超している。ただ、種ごとの母数は少ないため、統計の信頼性を高めるための様々な工夫をしているが、最終的には、知識として何かの折に参照するという程度でとどめれば良いのかと思う。
これまで、身体が大きいとガンのリスクが低いとか、象のような長生き動物のガンのリスクは低いなど、この問題については様々な可能性が示唆されていた。しかし、このレベルの哺乳動物の数で調べてみると、がんリスクと関係ある最大の要因は食事で、他の動物を襲って食べる肉食獣は大きさにかかわらず、ガンリスクが高い。大体平均で10%がガン死しているが、オーストラリアの小型肉食ネズミKowaiに至っては57%がガン死することがわかった。
動物園での餌を調べてみると、動物性の餌を摂ればとるほどガン死のリスクが高まっており、これを裏付けている。面白いのは、動物性と言っても、昆虫など脊椎動物以外の動物を餌にしている場合は、ガン死のリスクは上昇しない。
一方、草食動物ではやはり大きさにかかわらず、ガンのリスクはかなり低い。この中間がネズミ、サルの仲間になる。
最後に、寿命や身体のサイズとの相関を調べると、ほとんど相関がないことも示している。
要するに、一部の動物だけで野生動物を断じることが危険で有ることがよくわかる、気楽だが面白い論文だと思う。話の折に参照出来る、学校の先生には最適の資料だと思う。