2月16日 脾臓の樹状細胞が赤血球の流れを感じる仕組み(2月11日号 Science 掲載論文)
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2月16日 脾臓の樹状細胞が赤血球の流れを感じる仕組み(2月11日号 Science 掲載論文)

2022年2月16日
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樹状細胞(DC)は組織に定着して抗原を補足したあと、移動してリンパ球に抗原を提示する役割がある。この時ランゲルハンス細胞のように皮膚組織からリンパ組織まで移動する細胞もあるし、リンパ組織内で抗原を捕まえた後、濾胞まで移動してそこに定着する濾胞DCまで存在する。例えば皆さんが注射しているmRNAワクチンは直説所属リンパ節の濾胞DCに取り込まれることが知られている。このように、樹状細胞の機能発現には移動や定着の調節が重要だが、そのメカニズムはまだまだわかっていないことが多い。

今日紹介するカリフォルニア大学サンフランシスコ校からの論文は、脾臓に存在する2型樹状細胞(DC2)の脾臓内での定着のメカニズムを詳細に至るまで解明した素晴らしい研究で2月11日号のScienceに掲載された。責任著者のJason Cysterは個人的にも知っているが、彼らしいさすがと思える論文で久しぶりに彼を思い出した。タイトルは「CD97 promotes spleen dendritic cell homeostasis through the mechanosensing of red blood cells(CD97は赤血球の機械センサーとして働いて脾臓の樹状細胞ホメオスターシス維持を促進している)」だ。

脾臓は骨髄と同じで血管が組織に開いており、これにより出来た細胞を再び血中へ送る造血組織としての働きが出来る。また、血中に流れてくるバクテリアなど粒子抗原を補足するためにもこの構造は重要で、そのため類洞と呼ばれる領域には樹状細胞が並んでおり、Gα13やArhGEF1分子シグナルが類洞のDC2維持に必須であることが推定されていた。

この研究ではまずGα13シグナル経路が欠損すると、DC2が類洞に維持できないことを確認した後、Gα13と共役している受容体をクリスパーノックアウトを用いてスクリーニング。最終的にCD97を特定している。

このCD97は面白い分子で、G共役型の受容体によく見られる自分で自分を活性化する自己活性化型受容体だ。タンパク質が発現するとN末が切断されたあと、自己活性化出来る部位をカバーする。このカバーを引き剥がすと、自己活性化部位が受容体を活性化することでシグナルが入る。

この発見が研究のハイライトで、後は、カバーを剥がすシグナル、定着のメカニズム、定着の必要性、そしてCD97を発現させるシグナルを丁寧に実験的に明らかにしている。膨大なデータなのでシナリオだけを箇条書きで紹介する。

1)CD97の発現はIRF4と呼ばれるインターフェロン反応性因子により調節されており、炎症状態を感知してDC2を脾臓に待機させる役割がある。

2)CD97は、Gα13シグナルを活性化し、細胞骨格に働くことで、DC2の血中への移動を抑えており、このシグナルが低下すると、DC2は脾臓を離れる。

3)DC2上のCD97刺激は、赤血球が発現するCD55により媒介される。すなわち、赤血球上のCD55と結合したCD97のN末カバーは、赤血球が流れるため引き剥がされる。その結果自己活性化部位が露出し、CD97が活性化される。

4)このシグナルが欠損して脾臓DC2の数が低下すると、粒子状抗原に対する反応が低下する。

まとめてしまうとこれだけだが、実際には赤血球がCD97カバーを引き剥がす実験や、DC2の移動についての体内でのライブイメージング、さらには赤血球の流れの必要性を調べるための脾臓血流遮断実験など、さすがJasonと思える研究だ。しかし、このようなメカノセンシングが必要な状況は数多くあるだろう。今後の発展が期待できる。

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