免疫システムがガンを征圧できると実感を持ったのは、チェックポイント治療の成功と、CAR-Tによるリンパ性白血病(CLL)治療の成功を知ったときだった。このCAR-TをこのHPで紹介したのが2014年10月のことで(https://aasj.jp/news/watch/2309)、末期のCLLの9割で完全寛解が見られたことを興奮して紹介した。
おそらくこの時の患者さんだと思うが、同じペンシルバニア大学からCAR-T治療を受けてすでに10年、CLLが完全に抑えられている2例の患者さんについての詳しい報告が2月2日Natureにオンライン掲載された。タイトルは「Decade-long leukaemia remissions with persistence of CD4 + CAR T cells(10年にわたる白血病寛解例ではCD4陽性CAR T細胞が持続している)」だ。
2人だけとはいえ、10年以上にわたって、全く再発無く過ごせた患者さんがいたことで、CAR-T治療改善に向けた様々なヒントが得られる期待が大きい。両者とも、白血病細胞だけでなく、CD19を発現する正常B細胞も完全に消失したまま経過している。
個人的に面白いと思ったのは、2人のうち1人は、10年目にして、CAR-Tは持続しているのにB細胞の数が少し上昇していることで、白血病も再発してきたのか、B細胞上昇は一過性の現象なのか、あるいは今後も回復が続くのか知りたいところだ。
この研究の最も重要な発見は、残存するCAR-Tが最終的にCD4陽性キラー細胞に収束するという発見で、おそらく誰も予想できなかったと思う。
CAR-Tを制作するとき、末梢血からCD3陽性細胞を生成し、そこにCAR遺伝子を導入するが、それ以上の細胞の精製は行わない。従って、用意したCAR-Tは、CD4とCD8陽性の細胞が含まれている。なのに時間がたつと、ほぼ100%がCD4陽性細胞になることは、このタイプのT細胞が体内での長期維持に向いていることを示している。
実際、正常のCD4細胞と比べても、CD4陽性CAR-T細胞は、末梢血に循環しているものでも、増殖マーカーを発現している。すなわち、持続的抗原刺激がある場合、CD4T 細胞が増殖しやすいことを示している。個人的考えだが、リンパ組織のどこかで、このようなメモリー細胞を選択的に増殖させているメカニズムがあるのだろう。
こうして選択されたCD4陽性CAR-Tの場合、最終的に選択されてくるのはキラー活性を持つCD4型T細胞で、かなり特殊な選択状況が生まれている可能性が高い。今後、CD4陽性、キラー型T細胞に注目して他の患者さんの経過を見ることで、このタイプの細胞が成功の鍵を握るのかが明らかになるだろう。もしそうなら、最初からこのタイプの細胞を準備することで、成功率を上げる可能性がある。
繰り返すが、ベクターに用いたレンチベクターウイルスはランダムにゲノムに挿入されることから、CD4陽性CAR-Tの中でも、さらにクローン性増殖が起こっているかを調べることが出来る。事実、時間の経過とともに、安定的に増殖するクローン数が減っていくことが観察される。ただ、時間とともにそれまで優勢で無かったクローンが急に現れたりもするので、クローンが選択される条件については、さらに検討が必要だろう。ただ、最も心配された特定の遺伝子(例えばガン遺伝子)がレンチウイルス挿入で活性化される心配は、この2例では見られていない。
他にも、経過に応じてみられるCAR-T側の変化が詳しく記載されているが、割愛していいだろう。CD4陽性型CAR-Tが、持続的ガン免疫の鍵として浮上してきた意味は大きいと思う。