2月28日 肺細菌叢を変化させて自己免疫性脳炎を抑える:毒をもって毒を制する(2月23日 Nature オンライン掲載論文)
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2月28日 肺細菌叢を変化させて自己免疫性脳炎を抑える:毒をもって毒を制する(2月23日 Nature オンライン掲載論文)

2022年2月28日
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論文ウォッチを始めて早10年近く、細菌叢についての実に様々な論文を紹介してきた。おそらくこのトピックスは、論文ウォッチで扱われたトピックスの中ではトップ3に入るのではと思う。しかし、肺の細菌叢について紹介したことは一度もなかった。

今日紹介するドイツ・ゲッティンゲン大学からの論文は、肺の細菌叢を、ネオマイシンの気管注入で変化させると、タイプ1インターフェロンを誘導するLPSの量が増え、脳内のミクログリアが変化し自己免疫反応が低下するという、なんとも不思議な現象を示した研究で、2月23日Natureにオンライン掲載されている。タイトルは「The lung microbiome regulates brain autoimmunity(肺細菌叢が脳の自己免疫を調節する)」だ。

この研究は、マウス気管にネオマイシンを注入することから始まっている。まずネオマイシンというのが珍しい。同じアミノグリコシル系を用いるなら他の薬剤もあるのにと思ってしまう。さらに、このような抗生物質で細菌叢処理をする場合、細菌叢を除去することを目的にするのが普通なのだが、この研を究では、dysbiosisと呼ばれる通常とは異なる細菌構成を誘導することが、目的になっている。

このような変わった実験条件で行われているのだが、驚くなかれ、気管にネオマイシンを投与すると、自己免疫性の脳炎が著しく改善するという結果が得られる。まず、なぜ改善が見られるのかを調べていくと、自己抗原に対する免疫反応の誘導や維持が影響されるのではなく、肺の細菌叢が変化することで、脳内のミクログリアが局所の自己免疫反応を維持できないタイプに変化してしまうことで、脳炎が抑えられていることが明らかになった。

脳内の自己免疫性炎症が維持されるためには、ミクログリアが必要であることはこれまでもわかっていた。この研究でも、脳内のミクログリアを除去すると、ネオマイシンの気管注入と同じ効果があることも示している。ただ、肺細菌叢の変化だけでは、ミクログリアの数は変化しない。かわりに、自己免疫性炎症に必要なtype IIインターフェロン刺激による分子発現が消失し、type Iインターフェロンの刺激を受けたタイプに変化してしまっている。即ち、肺の細菌叢の変化により、ミクログリアがtype Iインターフェロン刺激優位になることで、ミクログリアの自己免疫性炎症を支持する機能が失われるという、不思議な現象が起こっている。

この考えを支持するように、肺細菌叢で起こっているdysbiosisを調べてみると、type1インターフェロンを誘導するLPSを発現する細菌の数が2.5倍に増え、血中のLPSも上昇している。結局、dysbiosisと言った間接的要因ではなく、LPSが存在すればよいことになるが、実際LPSを発現する細菌を不活化して気管投与しても、同じようにミクログリアの変化を誘導し、自己免疫性脳炎を抑えることが出来る。

以上が結果で、もう一度まとめると、気管にネオマイシンを注入すると、LPSを発現する細菌種が気管で増え、このLPSは脳内でTLR3を介してtype1インターフェロンを脳内で誘導し、この結果ミクログリアが変化して、自己免疫性炎症の維持が出来ず、脳炎が治まるというシナリオになる。

全部読み通した後で考えてみると、最終的には肺の細菌叢を変化させるという迂遠なことはやめて、脳内に直接LPSや1型インターフェロンを投与すればよいことになる。しかし、炎症を抑えるのに、別のタイプの炎症を誘導するという、毒をもって毒を制する方法が、実際の臨床現場で受け入れられるのは簡単でないように感じる。

カテゴリ:論文ウォッチ
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