2月23日 多発性硬化発症に至る人間の免疫反応を特定できるか?(2月16日 Nature オンライン掲載論文)
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2月23日 多発性硬化発症に至る人間の免疫反応を特定できるか?(2月16日 Nature オンライン掲載論文)

2022年2月23日
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多発性硬化症(MS)に関しての最新トピックスは、ほとんどのケースで、EBウイルスが自己免疫誘導の引き金になっていることが明確になったことだろう(https://aasj.jp/news/watch/18787 及びhttps://aasj.jp/news/watch/18926)。これは大きな前進だが、病気の理解という点では、この引き金から病気発症までのプロセスを明らかにする必要がある。現在のところEBからMS発症までを再現する動物モデルが無いことを考えると、実際の患者さんについて調べるしか方法は無い。しかし、人間集団は途方もなく多様で、実際MS発症と相関するSNPでも実に200種類も存在し、MSによる免疫反応だけを抽出することが難しい。

この問題に対し今日紹介するチューリッヒ大学からの論文は片方だけがMSを発症している一卵性双生児ペアを61組も集めてきて、発症による免疫細胞の変化を特定しようとした研究で、2月16日 Natureにオンライン掲載された。タイトルは「Twin study reveals non-heritable immune perturbations in multiple sclerosis(双生児研究によって、多発性硬化症による非遺伝的要因による免疫系の乱れが明らかに出来る)」だ。

残念ながらこの研究はMSがEBウイルスが原因の一つであるという最近の結果をほとんど考慮していない。従って、この結果をEBと連関させるのは今の段階では難しいが、この方向でも研究が進められているだろう。ともかく、片方がMSという一卵性双生児ペアが61組も集められたことが、この研究の最大のハイライトだ。

研究では、免疫機能に関わる細胞を単一細胞レベルで徹底的に調べ、MS患者さんのみに共通に見られる違いを調べている。この違いの中から、治療による影響などを補正して、最終的にMS特異的変化として抽出出来たのは3種類だけだった。

これだけ調べてたかだか3種類と思われるかもしれないが、これが背景を一致させることの効果で、一卵性双生児ペアでなければ、もっと多くの違いがリストされ、焦点が絞りにくくなる。その意味で、一卵性双生児のみで比べたこの研究の目的は十分達せられている。

さて、3種類の違いだが、一つは白血球がMS患者さんだけで、炎症で活性化され、体中を駆け巡るタイプの白血球にシフトしている。

2つめは、ヘルパーT細胞集団のCD25発現がMS患者さんで高まっている。すなわち、ナイーブな段階からエフェクターやメモリー細胞へ分化する過程で、IL2の刺激を受けて増殖しやすい条件がそろっている。

最後に、MS患者さんではIL-2とともに、IL-17AやIL-3などのサイトカインが上昇している。

もともとIL-2シグナルは、MS発症のための遺伝的バックグラウンドとして特定されているが、MS発症の過程でさらにヘルパーT細胞がIL-2過敏性になり、その結果GM-CSFやIL-3、そして炎症性サイトカインIL-17が分泌されることで、白血球が活性化される、という経路が明らかになった。

これだけかといわれればそれまでだが、今後EBウイルスとの関わりで結果を見直していけばもっと面白い話が出てくるような気がする。

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