6月2日 臭いを感じて認識するダイナミックス(5月18日号 米国アカデミー紀要 オンライン掲載論文)
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6月2日 臭いを感じて認識するダイナミックス(5月18日号 米国アカデミー紀要 オンライン掲載論文)

2022年6月2日
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日本の研究は、研究機関やメディアで紹介されるので、紹介は控えているが、今日の論文は毎日ワインを飲みながら感じていることに近いので、あえて紹介することにした。

どんなことを考えているかだが、ワインテースティングは決して感覚の問題ではない。香りと味の様々な要素を言葉にするとともに、様々な記憶を呼び起こして判断する。おそらく言葉にすることで、より鮮明に記憶を呼び起こせる。これが面白いので、失敗をいとわず、なるべく違うワインをトライして楽しむようにしている。もちろん私の余命と比べたとき、ワインの種類はほぼ無限と言っていいので、飲み尽くす心配はない。

さて、今日紹介する東京大学からの論文は、10種類の同じ強さの異なる臭い(快適な臭いから不快な臭いまで)を嗅いだときの脳波を調べ、最初の刺激がどのように認識として脳内に表象されるかについて調べた研究で5月18日米国アカデミー紀要にオンライン掲載された。タイトルは「Spatiotemporal dynamics of odor representations in the human brain revealed by EEG decoding(人間の脳内に形成された臭いの表象の時間空間的ダイナミックスが脳波の解読から明らかになる)」だ。

研究では22人の被験者について、10種類の臭いに対する主観的な印象を調べるとともに、脳波を記録し、それぞれの臭いに対する脳波の反応から臭いの種類をデコードできるモデルを作成し、このモデルから臭いが認識されるまでの過程を追いかけた研究だ。脳研究では普通の手法で、頭皮の外側からの脳波記録なのでどこまで正確なモデルを作成できるのかちょっと心配になるところだが、臭いの刺激を受けてから1秒間程度の経時的変化を記録して、64電極による空間的記録と合わせることで、基本的には臭いの種類を十分区別できるモデルが出来ている。実際、言語認識の研究を別にすると、時間ファクターも含め総合的に判断するモデルの論文はほとんど読んだことがなかった。いわばビッグデータ解析なので、全ての詳細を省いて、結論だけをピックアップすると、以下のようになる。

  1. 臭い刺激に対する脳の反応は150msぐらいから始まり、これが刺激に対する一次感覚を反映している。
  2. これが刺激の認知として始まるのは、300msぐらいからで、不快な臭いほど反応が早い。
  3. その後、それぞれの臭いを特徴付ける反応は脳全体に広り進化して、ほぼ1秒間かけて認識のピークに達する。
  4. 脳の各領域に応じて、反応のピークは異なる。即ち、臭いの認識が時間をかけて進化することを示している。
  5. 特に臭いの質を判断する認識に、言語に関わる Broca 領域が関わっているのは面白い。

以上、全てすっ飛ばして自分がワインを感じている時を思い出しながらまとめてしまったので、著者には申し訳ないことをしたかもしれない。しかし、個人的体験を後追いでき他という意味で、本当に楽しめる論文だった。

今後、それぞれの領域が、一つの臭いの構成にどのような意味を持つのか、AI を超えた解析が進むことを読者として期待したい。

カテゴリ:論文ウォッチ