6月10日 肥満にはダイエットより薬剤で(6月4日 The New England Journal of Medicine オンライン掲載論文)
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6月10日 肥満にはダイエットより薬剤で(6月4日 The New England Journal of Medicine オンライン掲載論文)

2022年6月10日
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これまで多くの肥満を防ぐと称する薬剤や食品が巷に出回ってきた。科学的な根拠がある薬剤だけでも、レプチンからドーパミン拮抗剤までトライされてきたが、数多くの薬剤が試されたが、副作用などの問題で全て失敗に終わっている。結局肥満に対してはダイエットの努力しか王道はないと思われていたところに、それまで糖尿病の治療に用いられて大きな効果を示していた消化管ホルモンGLP-1 の半減期を延ばしたセマグルタイドが、初期の消化器症状を除くとたいした副作用もなく、肥満解消を実現したという報告が the New England Journal of Medicine (Vol 384, 989, 2021) に発表された。

これに刺激され、経口薬の rybelsus や GIP/GLP の療法の作用を持つ tirzepatide など、糖尿病ではなく肥満に対する薬剤として治験が始まっていた。今日紹介するイエール大学とイーライリリーを中心にした国際チームによる論文は GIP/GLP 両作用が確認された tirzepatide を1週間1回皮下注射の効果を調べた、2000人規模の無作為化偽薬試験で、「肥満は薬剤で」という時代を予感させる臨床研究だ。タイトルは「Tirzepatide Once Weekly for the Treatment of Obesity(週1回の tirzepatide 注射による肥満治療)」で、6月4日 The New England Journal of Medicine にオンライン掲載された。

1研究は、大規模という意味では大変だが、内容は単純で、2539人の平均体重104.8Kg, 平均 BMI 38.0という肥満の男女を無作為化して4群に分け、週1回それぞれ5、10、15mg tirzepatideあるいは偽薬の皮下注射を受け、72週まで観察して体重への効果を調べるだけだ。

結果はセマグルタイドの注射と同じで、体重は60週ぐらいまで下がり続け、72週で、なんと5mgで16%、15mgでは22.5%低下している。また、ほぼ全ての人で10%程度の体重減少が達成できている。

すなわち、100kgの人が80kgになる。単純比較は出来ないが、セマグルタイドを用いた最初の治験では16%だったので、効果は劣らず、少しぐらいは高いかもしれない。

その結果代謝改善も著しく、空腹時インシュリン量では42%の現象、血中脂肪やコレステロールも2割を超えて低下、体脂肪も大きく減少するといういいことづくめの結果だ。

結果は以上で、2021年のテキサス、サウスウェスタン大学とノボノルディスクによるセマグルタイドの論文とほとんど同じ結論だ。裏返せば、GLP-1 受容体作動薬は安全な肥満治療薬として使えることが確認されたと言える。

ただ、今後 GLP-1 受容体作動薬が大きな議論の的になっていくように感じる。私は代謝の専門家ではないが、肥満の人ならこの薬剤を服用するという選択に反対する理由をほとんど見つけられない。とすると、ついに痩せる努力が薬剤で置き換わる時代が来たことを意味する。

実際、GLP-1 で検索すると、肥満の自由診療と銘打って、服用しやすいノボノルディスクのリベルサスを処方するオンライン診療の宣伝が溢れており、結構、名の通った企業も参入している。すなわち、様々な健康企業がこのトレンドをいち早く先取りしていることになる。そして今日紹介したように、製薬企業もその方向に狙いを定めているように思える。

これに対して、ノボノルディスクは、2型糖尿病以外に認可されていないこと、副作用もあるので責任をとれないことなどを述べた注意広告を出しているが、2型糖尿病への使用の歴史から考えて、このトレンドを抑えることはもう難しいように感じる。

カテゴリ:論文ウォッチ