チェックポイント治療(IC)は、抗原刺激が続くことで起こるT細胞の持続的活性化を抑えるフィードバック機構を抑制することで、過活性をあえて誘導し、ガンに対する免疫反応を持続させる治療だ。これがガンに効くことは明らかだが、治療自体に特異性がないため、他の免疫も活性化してしまい、多くの自己免疫反応を副作用として誘発することが知られている。幸い、多くの経験に基づいて、自己免疫反応を抑える治療法も開発され、使用が始まった当初と比べるとコントロールできるようになっている。
IC が原因の自己免疫反応の中で最もやっかいなのが、αミオシンを主な標的にする自己免疫性心筋炎で、発症すると3割以上の致死率という恐ろしい副作用だ。また、心筋炎が発症する患者さんでは、呼吸に関わる筋肉炎も併発し、重症筋無力症のような症状が現れる。
現在重症筋無力症に胸腺摘出が行われているのか把握していないが、私が臨床に関わっていた時代は胸腺摘出が行われていた。すなわち、胸腺でのトレランスの異常が背景にあると考えられていた。
ここまでは私でも連想できるが、今日紹介するフランス・ソルボンヌ大学からの論文は、さらに連想を拡大して、胸腺上皮腫瘍(TET)の患者さんに IC が使われることに気づいた。そして、TET に対する ICが心筋炎発症リスクが極めて高いことを明らかにした研究で、10月26日 Nature Medicine にオンライン掲載された。タイトルは「Thymus alterations and susceptibility to immune checkpoint inhibitor myocarditis(胸腺の変化とチェックポイント治療による心筋炎の感受性)」だ。
様々なデータベースを用いて、TET への IC と一般腫瘍への IC を比較し、一般腫瘍 IC 治療での心筋炎発症率が1%に対し、TET 患者さんが心筋炎を発症する率が16%に達することをまず確認し、これをソルボンヌの関連病院などの症例でさらに確認している。
そして、TET患者さんの IC治療では、心筋炎の症状も強く、重症筋無力症と同じレベルに発展すること、さらに治療後すぐに副作用が発生することを明らかにしている。
以上の結果は、重症筋無力症のような筋肉を標的にする自己免疫疾患には胸腺異常が潜んでいることを示している。そこで、一般腫瘍の IC で心筋炎を発症したケースについて、CTでの胸腺像を比較し、心筋炎を発症した人の15%が治療前に胸腺肥大が見られたことを明らかにしている。実際にはレントゲン形態的な詳しい検討が行われ、TET になる手前のグレード3の胸腺像が見られることを明らかにしている。
次に胸腺異常を末梢血で調べられるかにもチャレンジしている。まず、重症筋無力症で上昇するアセチルコリン受容体への自己抗体が当然上昇している。さらに、TcR の再構成で発生する環状DNAを指標に胸腺からのアウトプットが明らかに低下していることを明らかにした。
結果は以上で、心筋炎、重症筋無力症、胸腺、胸腺上皮腫と連想を続け、そこから胸腺異常と心筋炎のリスクを突き止めた、まさに臨床の気づきの研究と言える。
研究はここまでだが、結果は様々な免疫学的連想を生む。例えば最近紹介している胸腺動物園との関係は?あるいは、昔、胸腺リンパ体質と言われた体質との関係は?臨床研究はこのように連想が連想を呼ぶ。