11月5日 動物の頭の中を覗けるようになってきた(11月3日 Science 掲載論文)
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11月5日 動物の頭の中を覗けるようになってきた(11月3日 Science 掲載論文)

2023年11月5日
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行動時の脳活動を記録するエンコーダーと活動から行動を予測するデコーダーが開発されて、脳科学に回路学とは異なる研究領域が生まれた。その典型がオキーフとモザー夫妻のノーベル賞で、動物が認識している場所に対応する場所細胞や場所の空間的位置に対応する格子細胞の発見で、特に格子細胞は記録した活動をもう一度デコードしたとき脳内に格子が現れることでわかる。

ただこれまでのエンコード/デコード実験は行動と全く切り離した状況、すなわちイマジネーションの世界で行われたわけではない。というのも、実験動物が何をイマジネーションしているか問いただすわけにはいかず、結局行動から判断するしかなかった。一方我々人間は、昨日通った道を頭の中で再現することが出来るのは明らかで、動物でも同じようなイマジネーションの世界があるはずだ。

そんな中で、夢の研究から覚醒中に経験した神経刺激パターンが睡眠中に再現されていることが実験動物でも明らかにされた。これは行動と切り離されているのだが、意志に従って想像しているわけではない。面白いのは、以前紹介したように(https://aasj.jp/news/watch/20414)、マウスが覚醒時の経験をもう一度夢で再現しているときは、目の動きとして行動にも表れることだ。この行動から、マウスが何を夢見ているのか読み解けることがわかった。

今日紹介するハーバード大学からの論文は、エンコード/デコード実験をさらに進めて、ラットの覚醒時に、イマジネーションの中だけで自分が移動したり、物を目的の場所に移動させたり出来るかを調べた研究で、11月3日 Science に掲載された。タイトルは「Volitional activation of remote place representations with a hippocampal brain–machine interface(離れた場所に対応する神経表象を海馬とコンピュータの間のbrain-machineインターフェースを用いて活性化する)」だ。研究の内容をGPT-4にインプットして出来た漫画も掲載しておくが、残念ながら理解の足しにはならないので文章を読んで欲しい。

研究は海馬を128チャンネルの電極でカバーし、その活動を25ヘルツの頻度で記録し、また刺激できる様にしている。このラットを、ボール型のトレッドミルで走らせ、トレッドミルに連動したプレーグラウンドという外界イメージに基づいて、海馬に場所細胞を形成させる。次に目的を定めて同じ外界を走らせると、海馬の場所細胞が対応する場所に応じて興奮しながらゴールにたどり着くパターンをデコードすることが出来る。

これを確かめた後、今度はプレーグラウンドからの情報が全く入らない、すなわち周囲は白紙のトレッドミルにラットを置いて、これまでのデータからデコーダーが特定した場所情報(ゴール)を海馬に刺激としてラットにインプットしたとき、ラットが頭の中で示されたゴールに到達するかを調べている。勿論イメージの中でのゴールに到達するとご褒美がもらえる。

結果は期待通りで、頭の中で示されたゴールに、そこに至る場所細胞を順番に活動させながら到達する。面白いことに、最初はイメージに合わせて足も動いていたが、慣れてくると全く動かないで頭の中だけでゴールに到達して褒美をもらえるようになる。すなわち楽をして完全にイメージの中だけで遊んでいる。

ラットもイメージの中で行動できることが確認された瞬間だ。さらに実験を進めて、今度はラットの場所を固定して、特定の場所細胞を刺激することで、イメージ上でラットのいる場所から少し離れた場所に対象物、そして他の場所をゴールとして示し、対象をゴールに運ぶ道筋をイメージさせている。自分が動くことをイメージするのと比べると、精度は少し落ちるが、それでも離れた場所から離れた場所への移動をイメージしていることが、順々にゴールに向けて場所細胞が活動することからわかる。言ってみれば、ラットも完全に頭の中だけでゲームで遊ぶことが出来る。

これらの実験は、夢実験と異なり、ご褒美を当てにして、意志を持って脳の活動を自分で調整出来たことを示している。これが、場所細胞を一定のベクトルに従って順々に活動させることで行われることも確認している。

結果は以上で、脳全体の道具化を目指す人工知能研究が、今やbrain-machineインターフェース研究として実際の脳を巻き込んで研究を加速させていることがわかる。恐ろしいと思う人もいるかも知れないが、私のような老人は毎日新しい世界を経験できる今を楽しんでいる。

カテゴリ:論文ウォッチ