ブドウ糖の吸収と排泄は糖代謝のファーストステップで、主に2種類のトランスポーターにより調節されている。一つは SGLT1/2 で sodium/glucose-cotransporter で、ナトリウムの勾配を利用して細胞内にブドウ糖を取り込む。もう一つは4種類存在する GLUT で、濃度差に応じてブドウ糖を出し入れする。例えば腎臓の近位尿細管では、取り込みに SGLIT2、細胞外への排出に同じ GLUT2 が用いられているが、GLUT2 が欠損すると細胞内のブドウ糖が上昇し、グリコーゲンが蓄積、尿細管機能不全症に陥る。これが Fanconi-Bickel 症候群(FBS)で、尿細管と肝臓のグリコーゲン蓄積症として知られている。一方、小腸上皮でも細胞外のブドウ糖を主に SGLT1 を使って取り込み、それを GLUT2 を通して細胞外へ移行させることでブドウ糖を取り込んでいるが、GLRT2 をノックアウトしても、リン酸化ブドウ糖を小胞体内で再処理して、細胞外へと運ぶ仕組みがあり、大きな異常は発生しない。当然ブドウ糖の調節が重要な筋肉では、GLUT1 と GLUT4 が働いており、FBS では異常は起こらない。
今日紹介するイタリア・ナポリにあるカンパニア大学からの論文は、GLUT2 を近位尿細管細胞(PT)で欠損させた、FBSモデルマウスを作成し、この症状を現在糖尿病薬として広く使われている SGLT2阻害剤で治療できることを示した研究で、11月1日号 Science Translational Medicine に掲載された。タイトルは「The SGLT2 inhibitor dapagliflozin improves kidney function in glycogen storage disease XI(SGLT2阻害剤Dapaglifozin は11型グリコーゲン蓄積症の腎機能を改善する)」だ。
GLUT2 が全身で欠損する FBS は、低血糖だけでなく、アシドーシス、低カリウム症、低リン血症とそれによるくる病、そしてグリコーゲン蓄積による肝臓肥大と尿細管機能不全が起こる。
マウスで GLUT2 を PT だけで欠損させると、肝肥大以外のほとんどの症状を再現することが出来、アシドーシス、低カリウム症、低リン血症、そしてくる病の全ては尿細管機能不全に依ることがわかる。
また試験管内の実験で、GLUT2欠損PT ではグリコーゲンの蓄積の結果、オートファジーの機能不全が生じ、PT の変性を誘導していることも明らかになった。
GLUT2欠損で PT は SGLIT2 の発現量を低下させ、細胞内へのブドウ糖の取り込みを抑えるが、効果は限られている。そこで、現在糖尿病治療の重要な薬剤として広く用いられるようになった SGLIT2阻害剤Dapagliflozin をマウスに投与して、症状の改善が見られるか調べている。
結果は予想通りで、カリウム、リン、プロトンなど全てのイオンバランス障害は見事に改善し、これに対応して PT でのグリコーゲン蓄積も低下することが明らかになった。
この前臨床研究の結果を見て、一人の患者さんに Dapagliflozin投与を行うと、カリウムやリンの血中濃度が上昇し、尿に排出される尿細管のグリコーゲン量が低下し、またリン再吸収トランスポーターの発現量が上昇することを確認している。
以上が結果で、予測可能で驚くほどの話ではないが、前臨床を経て治療法を確立できたことはFBSの患者さんには朗報だ。それと同時に、今慢性腎疾患の特効薬として最も注目されている SGLT2阻害剤や、尿細管でのグルコーストランスポートを勉強し直すには最適の論文だと思う。