11月21日 気になる疫学調査3報(11月1日 Nature Medicine  オンライン掲載論文他)
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11月21日 気になる疫学調査3報(11月1日 Nature Medicine オンライン掲載論文他)

2023年11月21日
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疫学調査について紹介することは多くないので、今日は個人的に気になった疫学調査論文を3報まとめて紹介することにした.

最初は香港大学からの論文で、妊娠中に Covid-19 に感染した時、ウイルスに比較的特異的と考えられる3Cプロテアーゼ阻害剤を服用した妊婦さんと胎児の経過についての調査で11月1日 Nature Medicineにオンライン掲載されている。タイトルは「Nirmatrelvir/ritonavir use in pregnant women with SARS-CoV-2 Omicron infection: a target trial emulation(新型コロナ感染妊婦の Nirmatrelvir/ritonavir 使用:標的試験模倣観察研究)」

Nirmatrelvir/ritonavir 合剤はファイザーからパキロビッドとして発売され、ウイルス増殖に大きな効果があることから我が国でも広く使われており、他の薬剤と比べて妊婦や胎児への影響が少ないと考えられてきた。この研究では2022年3月から2023年2月までの1年間に Covid-19 に感染し、パキロビッド服用した妊婦と、抗ウイルス薬非投与妊婦さんのその後の経過を調べて、妊婦へのパキロビッドの安全性を調べた研究だ。

結果はこれまで指摘されてきた様に、パキロビッド服用による死産や新生児死亡は認められない。それどころか帝王切開や早産の確率は明らかに低下する。これは必要な治療をためらうと、重症化の危険があることを示す結果で、比較的重症化率の少ないオミクロンでも必要と判断すれば、抗ウイルス薬の服用は躊躇すべきでなく、その場合パキロビットは安全な薬剤として使えることが明らかになった。

2番目は若年者CTのリスクを調べる大規模コンソーシアムからの論文で、22歳以前に受けたCT量と、それ以降の血液型腫瘍の罹患率を調べた調査で、11月9日 Nature Medicine にオンライン掲載された。タイトルは「Risk of hematological malignancies from CT radiation exposure in children, adolescents an d young adults(小児期、思春期、そして青年期のCT放射線暴露による血液系腫瘍のリスク)」。

単純なX線撮影と比べて、CT撮影の実効線量は高く、1回あたり 15mSV 程度になるので、世界中で追跡調査が行われている。ほとんどの調査で白血病などのリスクを高めることは確認されているが、この100万人規模の多国間協力研究でも、同じ結果で 100mSV あたり全血液系腫瘍発生の相対的リスクが1.9倍近くになる。また、これまであまり指摘がなかったホジキンリンパ腫などでもリスクが高まることが示されており、小児のCT検査はリスクベネフィットをよく考えて思考すべきという結論になる。

最後はスウェーデンカロリンスカ研究所からの論文で、マンモグラフィーで一度陽性と診断され、その後の検査で乳ガンでないとわかった人たちは、その後乳ガンになる確率が高いことを示す研究で、11月2日 JAMA Oncology にオンライン掲載された。タイトルは「Breast Cancer Incidence After a False-Positive Mammography Result(マンモグラフィーで偽陽性と診断されたグループの乳ガン発症率)」だ。

スウェーデンでは国民番号に健康データがリンクされており、1991年から2017年までにマンモグラフィーで偽陽性(陽性診断を受けたあとその後治療まで進んでいないケース)となった45000人を抽出することができる。このグループのその後の乳ガン発症率を、陰性診断を受けた45万人と比べると、特に乳ガンが疑われた側の乳房でそガンが見つかる率がオッズ比でほぼ2倍高いという結果だ。

マンモグラフィーの診断が乳房の密度に左右されることを考えると、そのまま我が国に当てはまるかわからないが、この結果の説明として、小さな腫瘍の場合、マンモグラフィーだけでは確定診断ならないか、あるいは乳房の密度などで元々乳ガンになりやすい体質がいる可能性があるが、偽陽性診断された方でガンの発生が高いことは、前者の可能性が高く、マンモグラフィーで陽性になった場合、より注意深い検査が必要になる可能性を示している。

この様に医学では毎日さまざまな調査が報告され,医療の質向上に努めている。

 

 

カテゴリ:論文ウォッチ