Treg は免疫システムを制御して自己抗原に対する反応を抑える重要な細胞で、現在大阪大学の坂口さんにより発見された。これは抗原特異的細胞を標的にする反応が念頭にあるが、損傷を受けた組織で炎症を抑える保護作用も最近注目されている。
今日紹介する論文は、以前「胸腺びっくり動物園」として紹介し、YouTube 配信も行った胸腺トレランスに関する重要な発見を行った Dian Mathis 研からの論文で、運動による筋肉の炎症を抑え、運動機能を高めるのに抑制性T細胞(Treg)が重要な働きをしていることを示した論文。11月3日 Science Immunology に掲載された。タイトルは「Regulatory T cells shield muscle mitochondria from interferon-γ–mediated damage to promote the beneficial effects of exercise(抑制性T細胞は筋肉のミトコンドリアをインターフェロンγ から守り運動機能向上に寄与する)」だ。
この研究では、マウスに乳酸は高まるがクレアチンキナーゼは高まらない程度の運動を課すと、運動後24時間をピークに筋肉に免疫細胞やマクロファージが集まり、インターフェロンγ が分泌されることで、筋肉疲労が起こることを、組織学的、RNA解析などから確認している。また、運動を自由に続けさせる慢性運動では、2週間目がピークの細胞浸潤、ミトコンドリアの酸化リン酸化の上昇が起こること明らかにする。
この実験系で、Treg だけジフテリアトキシンで除去する実験系を用い、運動による筋肉組織の変化を調べると、リンパ球の浸潤が抑えられず、インターフェロンγがさらに上昇し、炎症反応が高まるとともに、筋肉障害も起こることを発見する。
この結果、Treg 存在化では認められる運動後に見られる筋肉の酸素消費量上昇を介する運動機能の上昇が認められず、 Treg が筋肉負荷後の運動能増強に必須であることを示している。すなわち、運動負荷は筋肉自体に様々な変化を誘導するが、同時に炎症を誘導してしまう。この炎症の効果を Treg が抑えることで、運動負荷による筋肉増強を守っていることがわかる。
実際、Treg が存在しないと、筋肉のミトコンドリアは膨らんでしまい、回復増強過程での酸化的リン酸化が維持できないことがわかる。
最後に、Treg がこのような機能を発揮できる原因を探り、他の組織障害に続く炎症時と同じで、インターフェロンγ の産生を抑制することで、筋肉を炎症から守っていることがわかる。実際、インターフェロンγ に対する抗体を注射すると、Treg が存在しなくても、炎症を抑え筋肉増強が可能になる。また、インターフェロンγ 受容体が筋肉で欠損したマウスでは、運動付加による運動機能の上昇が著しい。
以上が結果で、運動することは身体に良いが、局所の炎症を誘導してしまうので、これに対応できないと、運動の良い効果が発生しない。これを担っているのが Tregで、主にインターフェロンγ 抑制を介して機能を発揮していることになる。
日常の運動は、カロリー制限とともに、長生きの秘訣とされているが、この一端を Treg による炎症抑制が担っているとすると、Treg を高める長寿法も可能かも知れない。