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2月2日 発話過程の単一神経レベルの解析(1月31日 Nature オンライン掲載論文)

2024年2月2日
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私たちが話しているとき、まず話したい内容に合わせて単語を並べるが、その単語は子音や母音が合わさったシラブルと、音素と呼ばれる(調子やイントネーションまで含んでいる)音の最小単位が組みあわせられる。

この作業を次から次へと出来る脳の仕組みが存在する言うことが驚きだが、21世紀はその驚きのメカニズムが明らかにされると思う。特に大規模言語モデルの能力を比較することが可能になった今、大きな進展が期待できる。ただ、そのためには感知から発話までの様々な過程の脳活動を記録していくことが必要になる。

今日紹介するハーバード大学からの論文は、単一神経の活動を記録することが出来るクラスター電極を運動野に挿入した患者さんが、自然に話している時、発生した言葉の要素に対応する神経細胞を記録した研究で、1月31日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Single-neuronal elements of speech production in humans(人間の発話に関わる単一神経要素)」だ。

この研究では、細い一本の針に接触している異なる神経細胞の活動を拾うことが出来るクラスター電極を設置した患者さんで実験を行っている。実際には、自然に話してもらった時の、発生された文章を音素、シラブル、そして形態素(表現最小単位)に分解、これに対応する神経活動を拾っている。すなわち、考えた文章を音素、シラブル、形態素が集まる言葉として発話に至るまでの神経過程を解析した膨大な研究で、詳細は全て省いて、いくつかの重要な点を箇条書きにするが、発話を単一細胞レベルで調べられること自体が驚くべき話だ。

  1. この研究では、4000語の発話過程200あまりの神経を弁別して記録できているが、驚くのはこの小さな領域に、例えば全ての子音の発生と相関する神経が存在している点だ。言語のような複雑な研究では、広い範囲での記録が必要だと思うが、小さな領域にこれほどの多様性が備わっているのに驚く。
  2. 勿論発話に関わる神経の興奮は、実際の発話より前に起こるが、音素の指令に関わる神経は、音素の構造のプランにも関わっていることが時間差からわかる。そして、これらの要素から発話された内容を推定できる。
  3. 音素発話に対応する神経の一部は、話を聞いているときにも反応するが、これらは言葉のプランニングで反応する神経とは全く異なる。すなわち、発話とヒアリングは相互に補完してはいるが、全く別のプロセスであることがわかる。
  4. シラブルと音素の関係が異なっている単語の発話過程の解析から、シラブル、そして形態素に特異的な神経も存在し、発話のプランニング時に活動していることが明らかになった。
  5. これらの神経の活動ピークを並べると、形態素に対応する神経興奮の後(-400ms)、音素に対応する神経(-160ms)、そしてシラブルに対応する神経興奮(-70ms)と続いている。
  6. さらに、それぞれの要素に対応する神経は、空間的にもある程度まとめられており、早い反応を可能にしている。

以上が主な結果で、これから何を考えるか、それぞれの自由な世界が開かれていると思う。例えば言語に続いて文字が形成される過程をかぶせるのも面白いかも知れない。というのも、ほとんど母音を表記しないフェニキア以前の表音文字が、アルファベットで全ての音を表記できるようになる過程や、我々のようにシラブルを文字にするまでの過程を理解するにも、ひょっとしたらこのような研究が大きなヒントを与えてくれる気がする。

単一神経の記録は、AIのニューラルネットの各要素での反応を記録するのと同じで、おそらく大規模言語モデルでもそんな実験が行われると思うが、これと比べるのも面白い。次に何が出てくるか楽しみだ。

カテゴリ:論文ウォッチ
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