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2月9日 2報目 ガンの遺伝子変異からCAR-T増強法を学ぶ(2月7日 Nature オンライン掲載論文)

2024年2月9日
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現在白血病の治療として CAR-T は定着しており、しかもベンチャーというより大手の製薬会社により提供されている。おそらく、ガン免疫治療として、最初から最後までコントロールできる可能性が、この期待の大きな理由だろう。従って、現行の治療法を改良するため、様々な方法が開発され、おそらく次から次へと治験へ進んでいると思う。

そんな中で今日紹介するカリフォルニア大学サンフランシスコ校からの論文は、CAR-T の改良という点では同じだが、改良法をT細胞白血病の変異から学ぼうとする点でユニークだ。タイトルは「Naturally occurring T cell mutations enhance engineered T cell therapies(自然発生したT細胞変異により遺伝子操作によるT細胞治療効果を高める)」で、2月7日 Nature にオンライン掲載された。

ともかく発想が面白い。T細胞白血病は変異を繰り返しながらホスト環境にフィットする。一方、正常T細胞は増殖分化の各段階それぞれで条件が変化することから、正常細胞にガン抗原に対するキメラ受容体を導入しても、フィットした細胞だけを用いることはできない。そこで、フィットしたガン細胞の遺伝子変異の中から CAR-T の能力を高める変異を探し出そうと発想している。

T細胞系白血病から集めた遺伝子変異71個の中から、最終的にT細胞の3種類のシグナル( NFkB、AP-1、MALT1 )を変化させる CARD11-PIK3R3 変異を特定し、試験管内、およびガンを移植したマウスへの細胞移入実験でその効果を確かめている。

詳細を全て省いて結果だけをまとめると、3つのシグナルを変化させることで、IL−2 や IL-5 などのサイトカインを発現する能力とともに、抗原刺激時により高い増殖能を示すようになる。

そして、担ガンマウスに CAED11-PIK3R3 を導入した CAR-T を移入すると、通常の CAR-T と比べ、ほとんど再発がない強い抑制効果を示す。

また、CAR-T に限らず、レトロウイルスで CAED11-PIK3R3 を正常CD8T細胞に導入すると、生体内で他の細胞より多く増殖し、さらに発ガンを抑える免疫機構が発達することを示している。

これほど効果があっても、CAR-T がこの遺伝子で腫瘍化してしまったのでは本末転倒になる。この危険性さまざまな方法で調べ、抗原刺激や IL-2 刺激がないと増殖は止まること、さらに移植後長期間フォローしても問題は起こらないことを示し、ガン化のリスクは高くないと結論している。

発想はユニークなので、これほどの効果があると、たとえば必要な時にこの遺伝子が発現できないようにして使ってみたくなるのはうなづけるが、臨床応用は慎重にならざるを得ないと思う。

カテゴリ:論文ウォッチ

2月9日 1報目 催眠のかかりやすさをTMSで高める(Nature Mental Health 1月号掲載論文)

2024年2月9日
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今日はこの紹介の後に、もう一編論文を紹介する。というのも、これから紹介する催眠のかかりやすさに関する論文があまりに短いので、紹介した気にならないからで、貧乏性と言えばそれまでだ。

とはいえ、今日紹介するスタンフォード大学からの論文は、短くても面白く、今も催眠の医療応用の可能性が続けられていることがよくわかった。タイトルは「Stanford Hypnosis Integrated with Functional Connectivity-targeted Transcranial Stimulation (SHIFT): a preregistered randomized controlled trial(スタンフォード催眠術と機能的脳結合を標的にした経頭蓋脳刺激(SHIFT): 前もって登録した無作為対照試験)」だ。

つい先日、いつも世話になっている整体師さんに施術を行ってもらっているとき、整体師さんが「最近は催眠術の話をほとんど聞かないが、催眠術は利用されているのですか?」と聞かれ、答えに困った。何十年も前、テレビでも盛んに催眠術が紹介されていたように思うが、確かに最近はあまり耳にしないし、私が在籍した医学部で催眠術を利用しているのを見たこともなかった。

しかし調べてみると、最近では脳イメージや、脳操作を加えた研究が進んでおり、痛みの軽減や、リラクゼーションとして利用が模索されているようだ。

そんなときこの論文に出会った。この論文はスタンフォード大学で催眠を研究しているグループからの研究で、特に催眠のかかりやすさをスコア化し、催眠のかかりやすさが前帯状皮質と結合が強い左背外側前頭前野の活動と相関することを明らかにしていた。

そこで、前帯状皮質と結合の強い左背外側前頭前野をMRIで選んで、この領域にゆっくりしたθ波長で磁場による刺激を行い、この領域の活動を抑えることが催眠のかかりやすさに影響するかどうかを調べている。

結果だが、個人のバラつきは大きいものの、TMS処理後すぐに催眠のかかりやすさを調べると、多くの人でかかりやすさが上昇している。また、その効果は1時間で減少していくが、それでも傾向は残っていることがわかった。

結果はこれだけで、催眠を使うための努力が続けられていること、また脳イメージングを用いてこの研究が行われていること、そして催眠のかかりやすさの回路が明らかになったことなど、催眠研究の現状がよくわかった。次回の整体では是非この話をしたいと思っている。

(もう一編の論文も予定しています。)

カテゴリ:論文ウォッチ
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