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2月3日 手話の系統樹をコンピュータに描かせる(2月2日号Science 掲載論文)

2024年2月3日
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昨日に続いて、今日、明日と言語に関する論文を紹介する。今日は手話の系統樹だ。

手話が体系的に作られるのは近代に入ってから聾唖の子供達が学校に集められるようになってからで、多くは自然に発生してくる。手話が自然発生する過程が最も詳しく研究されたのは、ニカラグアの聾唖ストリートチルドレンが集められた施設で発生したニカラグアの手話で、我々人間が一定数集まると言語が自然発生することの証拠と考えられている。ただ、完全に自然発生するのは稀で、多くの場合聾唖学校が設立され、自然発生的手話が体系化されるという経過を辿ることが多い。

今日紹介する論文が対象とする手話は、音に対応させた手話とは異なり、例えば日本には日本語対応手話と日本手話が存在するが、日本手話の方にあたる。手話は各国に存在し、それぞれの関係については歴史的記述に基づいて記述されているが、言語のようにコンピュータを用いた解析はほとんど行われてこなかった。

今日紹介するワシントン大学からの論文は、手話をコード化して、19カ国の手話の系統樹をコンピュータに描かせようとした論文で、2月2日号の Science に掲載された。タイトルは「Computational phylogenetics reveal histories of sign languages(コンピュータによる系統樹により手話の歴史が明らかになる)」だ。

この研究の核は手話で使われる100の単語を、1)利き手、2)手の形、3)手の場所、4)動きをもとにコード化し、類似性をコンピュータで計算させることでそれぞれの系統樹を書かせることだが、この方法部分は私の理解を超えているので、結果だけを紹介する。

要するに、各国で現在使われている手話の系統樹が描けたということが重要だ。系統樹は、アジアとヨーロッパで完全に分離している。すなわち、元になった共通の自然発生手話が全く存在しないことを示している。この理由についてははっきりしないが、少なくともアジアの手話にグループとしての一定の共通性があるということは、さらにルーツを遡る重要性を示している。

解析されたアジア4カ国の手話は、中国/香港型と日本/台湾型に分かれる。手話が音や文法とは独立して形成されるとしても、日本と台湾が同じグループというのは不思議に思う。この論文には各国手話形成の歴史についてのサマリーもついており、これによると台湾の手話は、日本人の教育者の影響下で形成されたようだ。すなわち、ゲノムと同じようにコンピュータ系統樹を歴史と対応させることもできる。とすると、韓国も入れた比較は面白いと思う。

ヨーロッパ各国は1700年代に聾唖学校を設立し、これが手話成立のきっかけになっている。例えば、ドイツ、オーストリア、チェコ、あるいはエストニア、ラトビア、リトアニア、ウクライナ、ロシアが一つの系統に分類されるのは、歴史的経緯を反映しており、コンピュータ解析の妥当性をよく示している。

しかし、アメリカ合衆国と、イギリス/ニュージーランドグループが完全に分離しているのは面白い。すなわち、手話が体系化されるまでに国として別れると、同じ言葉を話していても、全く別の手話が発生することを示している。

さらに、同じルーツであっても、離れて発生すると、独自の変化を遂げることも言語と同じで、日本と台湾、あるいは英国とニュージーランドの手話を比べるとわかる。

結果は以上で、例えば完全に独立した手話と言える、イタリア、フランス、スペイン、ポーランド、アメリカなどを、もう一度脳科学を含む新たな視点から見直すことは言語の発生条件を知る意味で面白い。

最初に述べたように、手話は歴史が新しい点で、言語の発生を理解するために貴重な材料になる。現在使われているような体系化が起こる前には、より小さな集団で、聾唖者と正常とのコミュニケーションに使われた手話が存在し、また遺伝的に聾唖の多い地域、例えばアラブのベドウィン手話や、奄美大島の古仁屋手話なども存在する。コンピュータが導入されたことで、今後これらの統合的研究が加速すると期待する。

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