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2月10日 Perturb-seq を冠状動脈疾患のリスク遺伝子評価に使う(2月7日 Nature オンライン掲載論文)

2024年2月10日
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単一細胞レベルの RNA sequencing と、CRISPR/Cas によるノックアウトを組みあわせて遺伝子の機能を予測する Perturb-seq については以前 HP で紹介(https://aasj.jp/news/watch/19994)、さらにその重要性から YouTube で解説も行った(https://www.youtube.com/watch?v=-Yddv5xuPC8)。 そして予想通り、昨年5月にはこの方法が血液臨床研究に用いられているのを紹介した(https://aasj.jp/news/watch/22036)。

今日紹介するハーバード大学からの論文は、この技術を用いて冠状動脈疾患のゲノム解析データを細胞の機能へのマッピングを試みた重要な研究で、2月7日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Convergence of coronary artery disease genes onto endothelial cell programs(冠状動脈震撼遺伝子を内皮細胞プログラムに集約する)」だ。

Perturb-seq が最も力を発揮する領域への応用だ。これまで狭心症や心筋梗塞など、冠状動脈疾患と相関するリスクゲノム領域は300以上特定されている。その中の多くは、動脈硬化に関わる脂肪代謝遺伝子とオーバーラップすするが、それ以外の領域についてはほとんどわかっていない。

この研究では冠状動脈疾患の多くは血管内皮に問題があると考え、まずリスク領域とリンクした血管内皮特異的エンハンサーにより調節を受けている遺伝子を254種類リストしている。そして、血管内皮株でこれらの遺伝子を Perturb-seq によりノックアウトし、血管内皮特異的なプログラムに関わる遺伝子を最終的に41種類特定している。

これらの遺伝子は血管特異的なプログラムのうちの、血管新生、浸透圧、細胞接着、細胞遊走、血栓などに関わる5つのプログラムに集約しており、しかも多くはこれまで解析が進んでいない遺伝子で、新しい動脈硬化治療標的として研究がのぞまれる。

この研究では、41種類の遺伝子の中で、5つのプログラムのほとんど全てに関わっていた2種類の遺伝子に注目して、さらに研究を進めている。

一つは CCM2遺伝子で、元々脳海綿上奇形の責任遺伝子と知られている。もう一つはこれまでアクチン結合分子以外の機能がよくわかっていない TLNRD1 で、いずれもノックアウトすると、冠状動脈疾患のリスクを高める遺伝子発現を抑え、逆に血管を守る遺伝子を発現させることがわかった。

さらに調べると、両分子は相互に結合して機能し、あと2種類の分子と CCM複合体を形成して、MAPKシグナルを抑制する機能を持つことがわかった。さらに、これらの遺伝子に関わるリスク領域は、全てこれらの遺伝子の発現の調節領域で、疾患発生を抑えることが知られる多型は、TLNRD1 の発現抑制に関わることも突き止めている。

詳細は割愛して紹介したが、これまで疾患リスクとしてリストされていたゲノム多型を、見事に血管内皮を起点とする冠動脈疾患メカニズムへと昇華させており、Perturb-seq が最も有効に使われた素晴らしい研究だと思った。この中から、新しい冠状動脈疾患予防薬が開発されることを期待している。

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