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2月15日 新しいゼノリシス誘導薬の開発( Nature Cell Biology 12月号 掲載論文)

2024年2月15日
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少し時間がたってしまったが、面白いのに紹介し忘れた論文を紹介する。

ゼノリシスについてはこのブログでも何度も紹介した。すなわち、老化した細胞を積極的に死に追いやって、元気な細胞による新陳代謝を促し、組織や個体を若返らせるという方法だ。特に薬剤を用いるゼノリシス誘導法の開発が加速している。実に様々なアイデアが提案されており、このブログでも4-5種類の方法を紹介したと思う。いつかまとめてジャーナルクラブを行いたいと思っている。

そんな中、今日紹介する英国医学研究評議会研究所からの論文は、ゴルジ体と小胞体との小胞輸送を標的にすることでゼノリシスを促進することが出来ること、またそのための薬剤の可能性について示した研究で、12月号の Nature Cell Biology に掲載された。タイトルは「COPI vesicle formation and N-myristoylation are targetable vulnerabilities of senescent cells(COPI小胞形成と N-myristoylation 過程は老化細胞の弱点として標的に出来る)」だ。

この研究では、RASで誘導される細胞老化実験系に、5000種類のノックダウンsiRNAライブラリーを発現させ、そのうちの127種類の siRNA が老化細胞の細胞死を誘導する分子として特定している。

この中からゴルジ体と小胞体間の輸送に関わる小胞形成過程の抑制が老化細胞特異的に Caspase3/7 依存性の細胞死を誘導することを発見する。実際、COPI 形成を阻害するブレフェルディンAなどの薬剤を加えると、細胞老化が始まった細胞では60分の1の濃度で細胞死を誘導できる。

次に、この過程に関わる COPB2遺伝子をノックダウンしてゼノリシスのメカニズムを調べると、RAS発現で細胞老化が始まるとゴルジ体が拡がるが、この時 COPB2 がノックダウンされるとゴルジ体が分散してしまう。細胞老化でゴルジ体が拡がるのは、折り畳みがうまくいかない蛋白質が蓄積に備えるためで、事実 COPI 形成を抑えると、異常蛋白質の蓄積に反応する分子の発現が上昇し、最後はオートファジー異常に至って細胞死が誘導されることを確認する。

次は COPI 形成阻害を臨床的に利用できるかだが、老化を誘導できる線維芽細胞を移植する実験系で、ガン組織で周りの線維芽細胞が老化するとガン増殖を助けるという実験系で、及び肺の線維化を抑える実験を行っている。少し凝り過ぎと言える実験系を使わざるを得なかった理由は、COPI 阻害に使える薬剤のほとんどが成体に投与できる代物でないためで、実験を進めるには投与可能な化合物を見つける必要がある。

この研究では、COPI 形成に必須分子 ARF が機能するにはミリストイル化が必須であることを突き止め、この阻害剤を用いて COPI 形成を阻害して、ゼノリシスを誘導できることを明らかにする。

そしてミリストイル化阻害剤を用いて、非アルコール性肝炎での炎症や線維化を抑制できるか調べ、老化した細胞を除去し、線維化を抑えられることを示している。

以上が結果で、原理から考えると納得のゼノリシス誘導法だと思う。ただ、FDAに認可され臨床に使われているミリストイル化阻害剤はおそらく存在せず、またミリストイル化が起こる分子の数は多いことを考えると、そのまま抗老化の治療薬へと発展する可能性は少し低い気がする。

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