補体は主に肝臓で作られ、抗体によって、時にはオルタナティブ経路で活性化され、バクテリアや細胞に穴を空けて傷害するというのが一般的な理解だが、最近では様々な細胞が補体成分を合成し、局所で働くことが知られるようになってきた。中でも面白いのは、補体が神経シナプスの剪定に関わり、この異常がアルツハイマー病や、統合失調症に関わるという話だ(https://aasj.jp/news/watch/5056)。また最近紹介したように、腸管感染防御に母乳由来の補体成分が関わるという話も(https://aasj.jp/news/watch/23772)、意外な場所で補体が作られ、抗体を介さず感染防御に活躍していることを示している。
母乳内の補体成分の役割について紹介したのが1月23日だが、1週間しないうちに同じ Cell からハーバード大学のグループが発表したのが大人の腸内で合成され働いている補体成分の研究で、1月26日にオンライン掲載されている。タイトルは「Gut complement induced by the microbiota combats pathogens and spares commensals(細菌叢により誘導される腸内の補体成分は病原菌と戦い常在菌を保全する)」だ。
補体の合成される細胞や場所を特定する試みが広く行われているようだが、この研究では便中の補体C3成分無菌マウスではほとんど存在しないこと、さらにSPFマウスの細菌叢移植で誘導されることに着目し、まず腸内のC3の由来を探索している。
C3遺伝子に蛍光マーカーをノックインしたマウスや Single cell RNA sequencing を用いた検討から、従来想定されてこなかったストローマ細胞が最も多くのC3を発現していることを明らかにしている。また組織内での遺伝子発現も調べ、大腸では粘膜下でリンパ球が集合している領域の間質細胞で特に強い発現が見られることを明らかにしている。
C3合成の誘導に関しては、マウス側のバクテリア感知システム(Toll like receptorなど)のノックアウトマウスを用いて、TLR4/Myd88経路が主に働いており、このシグナル系を刺激できる最近は、グラム陰性陽性を問わず、C3誘導能があること、なかでも Prevotella属に誘導能力が高いことを示している。
次に腸内でのC3の機能を調べ、母乳中のC3についての論文でも用いられたマウス腸炎を誘導するバクテリア Citrobactor rodentum 感染を抑える働きがあること、そして細菌傷害メカニズムは細胞壁にC3が結合することで、白血球に貪食され、除去されることを示している。
以上が結果で、母乳による感染防御では、全ての補体成分が細菌にとりついて穴を空けることで細菌を傷害していたのと比べると、大人の腸管では他の補体成分の合成がないため結局白血球の貪食能力に頼っているようだ。
以上が結果で、補体だけで感染防御の最前線を担っていることは間違いない。