1型インターフェロン(IFN1)は感染防御の第一線で、このシグナル経路に関わる様々な分子の遺伝子変異を持つ動物やヒトは、ウイルス感染防御の低下が共通に存在している。このように IFN1 は感染防御システムとして存在していると考えられ、正常の組織課程に関与するとは考えられてこなかった。しかし、発生時にウイルス感染等で IFN1 に暴露されると、神経発生異常が誘導されることはよく知られた事実で、異常な状況では発生にも影響することはわかっていた。
今日紹介するカリフォルニア大学サンフランシスコ校からの論文は、感覚神経発生をモデルに IFN1 が正常発生にも関わっていることを示した研究で、4月11日号の Cell に掲載された。タイトルは「Type-I-interferon-responsive microglia shape cortical development and behavior(1型インターフェロン反応性のミクログリアは皮質神経発生と行動に関わる)」だ。
おそらく最初から IFN1 の関わる正常発生過程を探すとことが研究の目的だったと思われる。そして選んだのが、一本一本のヒゲの刺激を区別して感じるために形成される一次感覚野のそれぞれのヒゲに対応するバレルと呼ばれる単位構造だ。ヒゲに対応するバレル構造は大変有名な実験系で、感覚刺激を受ける細胞だけが生き残り、ほかの細胞が除去されることでバレル構造ができる。構造が形成できない。生まれてすぐにヒゲを抜いてしまうと、感覚刺激がないため、神経やシナプスの剪定ができず、バレル構造が消失する。
このバレル形成過程を観察すると、通常ほとんど存在しない IFN1 反応性グリア細胞が急速に増加し、ヒゲを抜いた場合はこの増加が見られないことがわかった。この IFN1 反応性グリア細胞の機能を調べていくと、バレル形成領域で死んだ神経細胞を貪食しているのがわかる。すなわち、選定過程で不要になり細胞死に陥った神経を速やかに除去するため、誘導されるのがわかる。
実際に IFN1 シグナルが関わるかを調べるため、全身、あるいはミクログリア特異的に IFN1 受容体をノックアウトする実験を行って調べると、神経細胞を貪食した後消化が遅れてリソゾームが泡状に膨れたバブル細胞が増加することを発見する。また、IFN1 を局所に投与する実験系で、ミクログリアの貪食も促進することを示している。一方、貪食される側の神経を調べると、主に感覚野の興奮神経であることも確認している。以上の結果から、IFN1 は感覚神経依存性のバレル形成過程で、興奮神経細胞を刺激を受けた必要な細胞だけに抑制する役割があることがわかる。このシグナルが欠損すると、貪食が低下し消化が進まず、神経細胞の剪定が進まず、細胞が全体で増加してバレルの境が消失する。
最後に IFN1 反応性ミクログリアの増加を誘導するシグナルを、様々な自然免疫分子のノックアウトマウスを用いて調べ、刺激を受けない興奮神経で細胞死過程が始まると、そのとき生じる dsRNA が MAVS により検知され、インターフェロンが誘導されることを示している。
結果は以上で、まず刺激依存的シナプスの剪定、それに続く神経細胞死の誘導が始まると、自動的に IFN1 反応性のミクログリアが増加して、必要ない神経細胞を除去する過程が明らかになった。IFN1 自体が神経発生に関わることはわかっていたが、正常過程でも機能していることを示したのがこの研究のハイライトといえる。
3月31日にも TLR9 が記憶の固定化に重要な働きをしていることを示す研究を紹介したところだが(https://aasj.jp/news/watch/24198)、自然免疫がここまで広く神経のダイナミズムに関わっているとは驚きだ。