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4月13日 動力学的視点が喘息の新しい治療法開発を促す(4月5日号 Science 掲載論文)

2024年4月13日
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喘息は気管支のアレルギー性炎症による刺激で気管支が収縮し、特に息を吐くのが苦しくなる病気で現在は気管支拡張のためのβ2アドレナリン受容体刺激剤と、炎症を抑えるステロイドの吸入で対応している。まだステロイド吸入剤が整備されていなかった私の現役時代(50年近く前)と比べると、かなりうまくマネージできるようになったと聞いているが、まだまだマネージができない患者さんもおられるようだ。

今日紹介するロンドン・キングスカレッジからの論文は、これまで考えられていた免疫性炎症だけでなく、気管支が収縮するときのメカニカルストレスによる組織障害が喘息の重要な要因になる可能性を探った研究で、4月5日号 Science に掲載された。タイトルは「Bronchoconstriction damages airway epithelia by crowding-induced excess cell extrusion(気管支収縮は上皮の過密を誘導し過剰になった細胞が吐き出されることで気管を損傷する)」だ。

確かに発作により気管が収縮すると、息が苦しくなるほど気管の内径が狭くなるので、気管上皮の密度は上昇する。しかし、ストレッチや圧縮に耐えるようにできた気管で本当に押しくらまんじゅうのように細胞が飛び出すのか、まずこの点を気管支収縮剤投与や、アレルギー反応誘導により気管を収縮させてみている。

結果は予想通りで、15分ですでに気管内に細胞が飛び出してくるのが観察できる。収縮が強いと、上皮全体が剥げ落ちることすらある。すなわち、気管収縮は力学的な強いストレスとして働き、上皮細胞の脱離を引き起こすことが確認された。そして、この脱離を気管支拡張剤だけでは防ぐことができない。

そこで気管上皮のメカニカルストレス経路にある分子の発現を調べると、Piezo や TRP のチャンネル、スフィンゴシン1リン酸(S1P)合成とそれによる受容体刺激が続くことを確認し、それぞれの阻害剤を気管支収縮誘導と同時に投与すると、気管支は収縮しても上皮の障害が起こらないことを確認している。また、より臨床的設定で、アレルギー反応が起こってから気管支拡張剤とともにメカニカルストレス経路を阻害する実験系でも、気管組織を守れることを示している。

メカニカルストレス軽減により気管支上皮の障害を防ぐことは、単純に組織のインテグリティーが守られるだけでなく、障害部位からのアレルゲンや細菌の侵入を防ぎ、炎症の拡大を抑えることも示している。すなわち、発作の度に上皮が傷害されることが喘息の遷延に大きな役割を演じていることがわかる。

さらに、阻害実験からメカニカルストレスは気管上皮を刺激して粘液分泌を高め、上皮組織の障害をさらに促進しており(すなわち上皮が基底膜から浮き上がる)、これを Piezo チャンネルや S1P 阻害剤で抑えることができることも示している。

最後に、喘息でステロイド吸入を続けている患者さんが、ガンで肺切除を受けた機会を捉えて、実際の喘息患者さんの気管組織を調べると、気管上皮の障害とともに、上皮の気管内への脱落が見られることを確認し、人間でもこの治療を必要としていることを示している。

以上が結果で、この研究で使われた Piezo 阻害剤や S1P 受容体阻害剤はそのまま臨床に使えないので、より安全な阻害剤の開発が必要だが、動力学的視点に立つことで喘息の新しい治療標的が特定できたことは間違いない。

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