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4月24日 皮膚免疫システムの男女差(3月12日号 Science 掲載論文)

2024年4月24日
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男女差はないと困る領域と、ない方がよい領域に分かれる。阪大の林さんたちが示したように、幹細胞工学の粋を極めれば、オスだけから個体を作ることは可能だが、作った個体の発生にはメスの体が必要になる。すなわち、性や生殖は男女差が必須の課程といえる。一方、X染色体の不活化が起こる巧妙な過程を見ると、多くの生命過程では男女差をなくす方向に進む。その究極が、20世紀に進んだ男女差別をなくす社会レベルの取り組みといえる。

ただ、どれほど男女差をなくす方向にシステムが進化していっても、制御しきれないほころびが残る。これが、例えば病気の男女差として現れてくる。この前のCovid-19パンデミックで、男性の方が重症化しやすかったのは典型的な例だ。

今日紹介する米国国立衛生研究所からの論文は、皮膚の樹状細胞ネットワークの男女差が発生するメカニズムについての研究で、比較的古典的な研究だが、免疫系で残る男女差の複雑性を知ることができた。タイトルは「Sexual dimorphism in skin immunity is mediated by an androgen-ILC2-dendritic cell axis(皮膚免疫の性差はアンドロゲン、ILC、樹状細胞を核に維持される)」で、4月12日号 Science に掲載された。

免疫の男女差についての研究は数限りなく発表されてきたので、何を今更と思って読み始めたが、マウスでもわかっているようでわかっていないことがまずわかる。まず驚いたのが、皮膚、肺、腸といわゆる体の外側と上皮で接している組織で、様々なタイプのリンパ球の数を雄雌で比較すると、皮膚や肺では大きく変動しているのに、腸ではほとんど男女差がない点だ。

さらに驚いたのが、細菌叢への反応が雄雌の差に関わるのではと、無菌マウスで調べると、肺でのリンパ球の数の差が消失する点だ。なぜここまで各臓器で差が出るのか不思議だ。特に、細菌叢が男女差を形成している肺で何が起こっているのか是非知りたいところだが、この研究ではこれ以上の追及は行われていない。

結局、体本来の仕組みによる違いとして、皮膚の免疫システムが残り、この性差のメカニズムが追求されている。結果は割と単純で、実験の順番にこだわらず答えをまとめると次のようになる。

まず性差の最終結果は、樹状細胞のネットワークの密度として反映されている。すなわち、女性の方が密度が高く、免疫反応を促進する体制になっている。

この差を生み出すのは、エストロゲンではなくアンドロゲンで、アンドロゲンのレベルが低下するとオスでもメス型の樹状細胞ネットワークに発展する。他の組織でアンドロゲンの差が見られない理由については、皮膚ケラチノサイトがアンドロゲンを合成しているので、この結果全身のアンドロゲンレベルの差が強く皮膚では見られると説明している。

アンドロゲンが働くのは、リンパ組織や炎症の核として働く2型 innate lymphoid cell(ILC2) で、アンドロゲンの作用により ILC2 が分泌する GM-CSF が押さえられ、結果樹状細胞ネットワークの形成が押すでは押さえられるというシナリオになる。

結果は以上で、研究としては古典的な研究で、納得して終わるのだが、いろんな連想を誘発する。特に面白いのは、皮膚だけでアンドロゲンの差が生まれる点で、元々性差は皮膚で表現されることを考えると、アンドロゲンがケラチノサイトで発現されて、アンドロゲンへの感度を上げる必要があった名残かもしれない。また、GM-CSFは 欠損すると肺胞蛋白症の原因になるが、皮膚で樹状細胞ネットワーク形成の主役になっていることも、気になる点だ。性差の研究はこれからも面白い分野として続くと思う。

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