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4月14日 グルココルチコイドの作用機序の見直し(4月10日 Nature オンライン掲載論文)

2024年4月14日
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私の現役時代から、様々な免疫異常にはグルココルチコイドが使われてきた。一般的に、ステロイドとか、副腎皮質ステロイドと呼ばれているのはグルココルチコイドのことで、今もこの薬剤なしに医療は考えられない。確かに、抗体薬をはじめとする分子標的薬が利用されるようになり、何でもグルココルチコイドに頼るというのはなくなった。しかし、例えば私の場合、単発性に湿疹が起こると、グルココルチコイドの濃度の高い塗り薬を使っているし、花粉症の目薬もグルココルチコイドを使っている。このような局所投与は問題ないが、グルココルチコイドは内服薬として摂取したときに代謝異常を中心に様々な副作用をおこすため、薬としては印象が悪い。

今日紹介するドイツ・エアランゲン-ニュルンベルグ大学からの論文は、グルココルチコイドが抗炎症作用を発揮するメカニズムを追求し、これまで副作用として知られていた経路が実際には炎症を抑えるのに重要な働きをしていることを示した興味深い論文で、4月10日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Metabolic rewiring promotes anti-inflammatory effects of glucocorticoids(代謝経路の再編がグルココルチコイドの抗炎症作用を促進する)」だ。

グルココルチコイド(GC)は核内受容体に結合し、転写を介して作用すると考えられてきた。ところが最近、代謝への影響は GC とピルビン酸デハイドロゲナーゼ(PDH)が直接結合することで TCA サイクルが活性化することによることが示された。この論文は引用数から考えてあまり注目されなかったようだが、おそらくこれに注目して GC の抗炎症作用を見直したのがこの研究だ。

炎症の中心に存在するマクロファージを LPS で刺激すると、様々な炎症促進分子が発現するが、GC 処理しても転写レベルでの変化は大きくないことがわかる。一方狙い通り、GC 処理後すぐから TCA サイクルが高まるとともに、酸素消費量が上昇する。すなわち、LPS で刺激されたマクロファージは短距離走時の筋肉のような糖代謝システムに変化し、グルコースを燃やしてできたピルビン酸は乳酸になるが、GC 処理で PDH 活性が高められるとピルビン酸が TCA サイクルに供給され、有酸素の長距離走型に変化することが確認された。

ただ代謝が長距離走型に変化するだけでは抗炎症作用は説明できない。調べていくと、TCA サイクル活性が高まることで、中間の代謝物の合成が上昇し、特にクエン酸からアニコット酸、そしてイタコン酸への経路が高まり、結果としてイタコン酸の合成が上昇していることがわかった。

イタコン酸は抗炎症作用を持つ代謝物として知られており、KEAP1 分子に結合することで NRF2 転写因子の核内移行を誘導することが知られている。そこで、LPS 刺激マクロファージに対する GC の効果を調べると。NRF2 がノックアウトされたマクロファージでは GC の効果が消失することがわかる。同様に、イタコン酸合成経路をノックアウトすると、やはり GC 効果がなくなることから、GC は、PD Hに結合して TCA サイクルを高めることで、イタコン酸の合成を上昇させ、マクロファージが分泌するイタコン酸が NRF2 を介して炎症反応を和らげていることが明らかになった。

最後に、GC 治療を受けている患者さんでは血中イタコン酸が上昇していること、マウスの実験系でイタコン酸合成経路がノックアウトされたマウスでは GC の効果がないことなどを示し、これまで GC 結合核内受容体の作用と考えてきた GC の抗炎症作用が、実は代謝の再プログラムを介したイタコン酸合成増加によると結論している。

結果は以上で、自己免疫反応に対する GC の効果がすべてマクロファージによって担われているのかについてはさらに検討が必要だが、GC の作用機序の一端が明らかになったことは、より特異的で副作用のない治療への一歩になると思う。

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