何でも調べてみるという気持ちが新しい発見を生む。今日紹介する中国北京、国立生物医学研究センターからの論文は、普通なら調べようと思わない脾臓内の自律神経支配を調べた結果、免疫による脾臓での胚中心形成にカプサイシン受容他 TRPV1 で刺激され、CGRPペプチドを分泌する神経が関わることを示した研究で、5月20日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Innervation of nociceptor neurons in the spleen promotes germinal center responses and humoral immunity(脾臓への侵害受容ニューロンの神経支配が胚中心形成と抗体反応を促進する)」だ。
侵害受容ニューロンとはカプサイシン受容体 TRPV1 を発現して痛みなど様々な刺激に反応する神経細胞だが、この研究では侵害受容細胞が発現するカルシトニン遺伝子様ペプチド(CGRP)をマーカーにして脾臓を染色し、侵害受容ニューロンが脾臓深く投射し、特に免疫の成熟に必須の胚中心に投射していることを発見する。
存在が確定すると、次は機能を調べることになるが、ジフテリアトキシンを使って TRPV1 発現細胞を除去する方法で内臓に投射する TRPV1 陽性細胞を除去し、免疫反応を調べると、抗体産生やクラススイッチはほぼ正常だが、抗原に反応する胚中心の形成が低下し、結果として抗原への親和性の上昇が抑えられることを発見している。
ただ、多くの臓器で侵害受容ニューロンを除去してしまうと、脾臓への投射以外の様々な要因が持ち込まれ解釈が難しくなるので、次に脾臓へ投射する神経回路をたどって胸椎レベル T8-T12 の後根神経細胞に由来することを特定し、より脾臓特異的な神経細胞除去を行う実験を行っている。結果は全身の侵害受容細胞を除去したときと同じで、抗原に反応して起こる胚中心の形成に侵害受容ニューロンが直接関わることがわかった。
後はメカニズムだが、ザクッとまとめてしまうと、抗原刺激による炎症刺激でプロスタグランジン E2 が脾臓で分泌され、これが TRPV1 を刺激する。この刺激は侵害受容神経の CGRPペプチドの分泌を誘導するが、これが B細胞上の Gタンパク質共役型受容体を刺激し、cAMP 上昇を誘導し、B細胞の抗原特異的反応を介して胚中心形成を促すというシナリオになる。
では抗原反応ではなく TRPV1 を刺激すれば免疫反応は高まるのか?おそらくこの最後の実験がこの研究のハイライトだと思うが、なんと免疫前にカプサイシンを含む食事をとらせ、免疫を行うと胚中心の形成が高まり、その結果抗体の抗原結合親和性が高まることを示している。この亢進は侵害受容を除去すると消えるので、まさに唐辛子を食べると免疫が上昇することを意味する。
実際その通りで、ウイルス感染実験で、まずカプサイシン入りの餌を28日間続けて食べさせ、7日目と21日目ににワクチンを接種、その後30日目にウイルスを感染させる実験を行い、カプサイシンを食べ続けた方が高い抗体反応を示し、感染防御を促進できることを示している。
結果は以上で、どのぐらいのカプサイシンを食べると免疫効果が高まるのかよく読んでみると、1Kgあたり100mgのカプサイシンを混ぜた食事をとらせている。このカプサイシン量がどのぐらい辛いのか調べてみると、農林水産省のサイトにタバスコソースが100-300mg/kgとなっていた。とすると免疫を上げるためにはタバスコソース並みの辛い食事を続ける必要があることになり、マウスがそんな食事を一ヶ月もよく続けたなと感心するとともに、唐辛子で免疫を上げるのは簡単でないことを悟った。しかし、超大辛でも問題ない人は、ワクチン接種前には是非挑戦してもいいかもしれない。