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6月16日 父親の経験を子孫に伝えるエピジェネティックメカニズム(6月5日 Nature オンライン掲載論文)

2024年6月16日
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肥満の父親から生まれた子供が肥満になるというエピジェネティックなメカニズムは多くの興味を引きつけてきた。実際、精子のクロマチンは一度完全に解消されるので、ゲノムにエピジェネティックなメモリーが残るとは考えにくい。その後、短い RNA を読む技術が進んだおかげで、受精時に精子から短いノンコーディング RNA が伝わって、それがクロマチン形成を調節するのではと考えられるようになった。

今日紹介するドイツミュンヘンのヘルムホルツセンターからの論文は、マウスの実験と人間のデータベースを組み合わせて、肥満の影響が成熟した精子のミトコンドリア由来 RNA の変化を誘導し、これが分解された短い RNA (sncRNA) として受精卵に伝わり、子供の代謝関連遺伝子をエピジェネティックに変化させることを示した研究で、6月5日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Epigenetic inheritance of diet-induced and sperm-borne mitochondrial RNAs(ダイエットにより誘導されるエピジェネティックな変化は精子中のミトコンドリア RNA で伝えられる)」だ。

PiwiRNA を筆頭に精子形成で多くの sncRNA が形成されるが、これまでの研究で父親の代謝の影響は精子ができてから精巣上体に蓄積される段階で起こるのではと考えられるようになっていた。この研究はまずこの点を確認するため、精子形成後精巣上体に精子が蓄積される2週間を狙って高脂肪食を与え、体重変化とは行かないがインシュリン抵抗性など糖代謝に関わる変化が精子を通して伝えられることを明らかにする。

このとき、高脂肪食で変化する精巣上体 mRNA を調べると、肥満の子供の mRNA 変化とオーバーラップすることから精巣上体での精子の経験が子供の肥満を誘導することを確認している。

次にどの sncRNA が肥満によって最も影響を受けるかを様々な方法で調べ、ミトコンドリア由来の tRNA や rRNA が代謝を関知し、それを子供に伝えていることを決定している。またマウスの結果を、人間の精子で確かめ、特にミトコンドリアの tRNA が肥満と大きく関わっていることを確認している。

そして、この sncRNA が確かに受精卵に伝わっていることを、人工授精後2細胞期に確認している。また、その結果初期胚の転写、特に酸化的リン酸化などミトコンドリアの代謝に関わる遺伝子発現が変化して、これが子供のインシュリン抵抗性を誘導することを確認している。

最後に、ミトコンドリアの遺伝子を変化させた精子を用いる実験で、確かにミトコンドリアの異常が、エピジェネティックに子供に伝わることを確認している。

以上が結果で、もう少しわかりやすく説明し直すと、精子ではほとんどの遺伝子発現はストップするが、ミトコンドリア維持のために RNA が転写されている。精巣上体から受精まで酸素濃度の異なる環境を通過する間に、酸化的リン酸化が高まるため、この mRNA は転写が上昇する。これによって、精巣上皮で経験したミトコンドリア RNAの 変化が増幅され、またこの RNA は分解され sncRNA として受精卵に伝わり、そこでエピジェネティックマーキングを変化させるというシナリオになる。

要は母親だけでなく、なんとか父親の経験も伝えようという涙ぐましい努力がにじんだ話で、面白い。

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