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6月11日 抗菌ペプチドを機械学習で探索する(6月5日 Cell オンライン掲載論文)

2024年6月11日
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相変わらず細菌叢の研究は盛んだが、細菌叢の多様性や種類と身体の状態を相関させる現象論研究から、細菌叢の機能を問うより因果論的な研究へシフトしている。例えば Cell の様な一般紙を1ヶ月振り返ると、胆汁成分から代謝性脂肪肝を防ぐ分子を合成する細菌を特定した研究、そして胆汁ステロイドから妊婦さんに影響のあるプロゲステロンを合成する細菌と酵素についての研究のように細菌の特定・機能のメカニズムの解析が組み合わさった研究と、今日紹介するペンシルバニア大学からの論文のように、膨大な細菌叢データを情報科学的に解析し、やはり有用物質を特定する論文が掲載されており、掲載には現象論を超えたより具体的な結果が求められるようになっている。

今日紹介する論文は、細菌のゲノムビッグデータから機械学習で抗菌ペプチドの特定にチャレンジした研究で、6月5日号の Cell に掲載されている。タイトルは「Discovery of antimicrobial peptides in the global microbiome with machine learning(世界中の細菌叢に存在する抗菌ペプチドを機械学習で発見する)」だ。

研究では、得られる細菌のゲノムデータから、まず遺伝子をコードするオープンリーディングフレーム(ORF)を抜き出し、それをすでに抗菌ペプチド(AMP)を学習した Marcel と呼ぶモデルに読み込ませて、AMP とモデルが判断した、なんと90万近いペプチドを特定している。

といっても90万と言われてしまうと本当にこれが AMP 活性があるのか、やはり実際の実験が必要になる。実際、最初は構造や相同性から、AMP としての機能を確かめようとしているが、α ヘリックスを持つことなどすでに知られている以上に、絶対的な指標は発見されていない。

結局90万の中から100種類のペプチドを選んで合成し、この活性を多剤耐性菌を含む様々な細菌について抗菌実験を行い、79種類に抗菌活性を認めルという結果から、機械学習モデルの予測性が結構高いと結論している。

さらに明確な抗菌活性を示した AMP の殺菌メカニズムを確かめる実験も行い、ペプチド添加により膜電位が破壊され、最終的に細胞壁の破壊を起こす共通のメカニズムを持っていることを示している。そして、これらの AMP を皮膚の感染創に加えることで菌の増殖を抑えられるという生体実験も示している。これらの機能解析結果から、Marcel モデルの信頼性を示した上で、次に AMP がどのように進化してきたのかについて解析を行っている。

この研究で調べられた細菌叢は、土壌細菌叢、海洋細菌叢、人間の腸内細菌叢、口内細菌叢などなど、多岐にわたるが、AMP はそれぞれの細菌叢特異的で、オーバーラップはあまりない。そして、AMP の発現の高い細菌叢は他の細菌を受け入れにくくできており、特定の細菌叢構成を維持する方向で AMP が進化していることがわかる。

次に、このような短いペプチド遺伝子がどのように形成されるのかを調べると、1)長い遺伝子にストップコドンが入る変異で短いペプチド遺伝子が形成される、2)タンパク質をコードする遺伝子が重複後に、ストップコドンが入るケースで、そのほとんどはリボゾームタンパク質由来、3)水平遺伝子伝搬、4)最初から AMP として新たに進化したケース、などが特定できる。

結果は以上で、要するに Marcel モデルを AMP 予測に使えることを示した大変な研究だ。

私たち人間も、インシュリンをはじめとするたくさんのペプチドホルモンを有しており、その多くはプロホルモンを分解して形成されるが、このような合成方法がほとんどないのに驚くが、一方で細菌叢の個性維持に個体間を超えるホルモンのような働きを AMP が持っていることもよくわかる。

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