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6月26日 乳ガンの軟髄膜転移のメカニズム(6月21日号 Science 掲載論文)

2024年6月26日
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乳ガンは骨髄や脳に転移しやすいが、一般的に脳転移と呼ばれている中には、血管から脳実質にに移行して増殖する場合と、脳や脊髄の軟髄膜組織で増殖する場合がある。後者は脳脊髄液の流れを阻害するので、強い頭痛や吐き気など、多彩な症状が現れる。

この軟髄膜転移は脈絡叢から起こるとされてきたが、今日紹介するデユーク大学からの論文は、頭蓋骨や脊髄から脳へつながる導出血管の血管外スペースを通って起こる可能性を示した研究で、6月21日 Science に掲載された。タイトルは「Breast cancer exploits neural signaling pathways for bone-to-meninges metastasis(乳ガンは神経系のシグナルを使って骨から髄膜へ転移する)」だ。

この研究では軟髄膜転移は単独で起こることはほとんどなく、脊椎や頭蓋の骨髄転移に続いて起こることから、骨と脳を結合する導出血管を通っているのではと着想し、血中に投与したあと軟髄膜へ転移した乳ガン細胞を、マウスへの投与を繰り返すことで、100%軟髄膜転移する乳ガン細胞株を樹立している。

この細胞株を血中に投与して転移までの過程を調べると、まず血管を通って髄膜転移するルートにはほとんどガン細胞は存在しない。しかし、骨髄転移したあと、血管外へ移動し、導出血管の外膜スペースを通って軟髄膜へ転移することを組織学的に確認している。この結果、マウスは軟髄膜転移症状が強く表れる。

しかし、このような不自然なルートをわざわざたどるためには、特別のメカニズムが存在するはずで、この研究では導出血管壁を通る移動のメカニズム、そして軟髄膜で増殖するメカニズムにつて順番に研究している。

まず移動についてだが、移動ルートにラミニンが存在することを手がかりに、ガン細胞がラミニン受容体の α6インテグリンを強く発現し、これをノックアウトすると軟髄膜転移が強く抑制されること、また軟髄膜転移しない α6インテグリン発現がない乳ガンに α6インテグリンを発現させると軟髄膜転移が起こることを明らかにしている。

次に軟髄膜での増殖だが、軟髄膜転移する細胞が NCAM1 か NCAM2 を強く発現しており、また NCAM をノックアウトすると軟髄膜まで移動しても増殖しないので、NCAM を刺激できる GDNF を髄膜局所で調達して増殖すると着想している。

そして、髄膜で GDNF を発現している細胞を探索すると、M-CSF 受容体を発現するマクロファージが軟髄膜に接して存在し、これがガン細胞と相互作用をすることで GDNF を強く発現することを発見する。組織学的にも、軟髄膜転移した細胞のほとんどはマクロファージに近接して増殖している。

そこで、M-CSF 受容体を発現する細胞で GDNFノックアウトを行い、そのマウスに乳ガン細胞を投与すると、軟髄膜転位症状の発生が抑制できることを示している。

最後に軟髄膜転移した臨床例を調べ、ガンが α6インテグリンと NCAM を発現し、また髄膜のマクロファージにより GDNF が周辺のマトリックスへ分泌、保持されていることを確認し、人間でも同じメカニズムが働いていることを示している。

結果は以上で、症状が強く、予後の悪い軟髄膜転移を防いだり、治療するための大きな手がかりになる研究だと思う。

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