9月4日 全く初耳の DNA 修飾フォルミル化は発生初期に機能する(8月29日 Cell オンライン掲載論文)
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9月4日 全く初耳の DNA 修飾フォルミル化は発生初期に機能する(8月29日 Cell オンライン掲載論文)

2024年9月4日
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『5-Formylcytosine is an activating epigenetic mark for RNA Pol III during zygotic reprogramming(5-フォルミルシトシンは胚のリプログラミング時に RNA Pol III を活性化するエピジェネティック標識として働く)』とタイトルを見て驚いた。ゲノムのシトシンメチル化、あるいはハイドロオキシメチル化は知っていても、フォルミル化とは初耳だった。

早速調べてみるとメチル化されたシトシンがまず Tet により酸化されてハイドロオキシメチルになるが、これがさらに酸化されるとフォルミルシトシンになる。すなわち、メチル化を外す Tet の作用で出てくる中間体で、最終的には thymine DNA glycosylase により修飾を受けないシトシンに戻す過程で発生する。

今日紹介するマインツにある分子生物学研究所からの論文は、このフォルミル化シトシン (5fC) が、単純にシトシンからメチル基を外す過程のバイプロダクトではなく、初期発生で母親からの RNA から、胚由来の RNA へと変化する胚ゲノム活性化過程で、RNA polymerase III 特異的な転写活性化標識として働いているという研究で、私にとっては全く新しい話だった。論文は8月29日 Cell にオンライン掲載された。

この研究ではアフリカツメガエルの初期発生時期に 5fC の出現を質量分析器で調べ、メチル化が進む時期で胚ゲノムの転写が始まる時期に急速に上昇し、神経胚期になると消失することを発見する。また、5fC を認識する抗体を用いて胚を染色すると、このことが確認されるだけでなく、5fC が主に傍核小体コンパートメントと呼ばれる、tRNA や rRNA の転写が起こる特別な構造に局在、さらにこれらの転写に関わる RNAポリメラーゼIII (PolIII) の局在とオーバーラップすることを発見する。

そこで メチル化DNA、ハイドロオキシメチル化DNA、そして 5fC をそれぞれ免疫沈降すると、Pol III はほとんど 5fC だけと共沈することから、Pol III により転写されている場所を指示する標識になっていることがわかる。

Pol III は tRNA や 5S rRNA など小さな RNA の転写に関わることが知られているが、どのゲノム領域がフォルミル化され Pol III 作用の標識になっているのか、フォルミル化された領域を抗体で精製した調べると、tRNA が並んでい短い領域が集中してフォルミル化されており、DNA修飾ではまだメチル化されているものの、ヒストン標識ではすでにオープンになっている領域であることがわかった。

あとは、フォルミル化に Tet2/3 が必須であり、これがないと tRNA の転写が起こらないこと、逆にフォルミル基を除去する thymine DNA glycosylase が存在すると、同じように tRNA の転写が低下することを示している。

以上のことから、発生初期元々 DNAメチル化により転写が抑えられているとき、母親の mRNA から胚自体の mRNA へのスイッチが起こり、このとき Tet が発現しメチル基を除去しにかかるが、thymine DNA glycosylaseの発現がまだ起こらないため、メチル基が完全除去に進まないギャップ時期に、特に翻訳に必須の Pol III による tRNA の転写を急いで進めるための特異的な機構として進化したといえる。

最後にマウスの初期発生でも Pol III と5fC の局在が一致することを示して、この現象がアフリカツメガエルだけではなく、哺乳動物でも存在すると結論している。

我々の身体は本当にうまくできている。

カテゴリ:論文ウォッチ