臨床の調査研究は、十分な数と正しい統計学的手法を用いて行って初めて結論が出るが、調べてみようという気持ちを後押しする気づきが存在することが多い。すなわち、統計学的には優位といえないが、気になる結果を示す調査研究が存在し、米国医師会が発酵する JAMA Network Open というフリーアクセス雑誌にはそのような論文が掲載されており、気づきという面では面白い。特に9月号では、強く興味を引かれた論文が2編発表されていたので紹介する。ただ統計学的には問題があることは断っておく。
最初の論文は心室細動 (VF) と脈が触れない心室頻拍 (pVT) に対する AED 処置の際、電流を流す2枚のパッドをどこに置くのがいいかという研究だ。
恥ずかしいことに AED を使うときパッドは右前胸部と左側胸部 (AL) だけと思っていたし、おそらく我が国の AED はそのように明確に指示されている。ところが実際には AL だけでなく心室部位の前後に設置する方法 (AP) もあるようで、米国では場所によって両方の可能性が示されており、さらに AL で3回ショックを与えてうまくいかないときには AP に変えるという指導もされているようだ。
この研究では VF と pVT で救急出動した255例で、救急隊員が AL、AP どちらを使ったかで循環が回復する確率を調べている。VF の場合救急車が駆けつけるまでは持たないと思うが、到着前に AED が一般人によって行われたケースが37例存在する。驚くのは、一般人が AED を行った場合は AP の方が AL より多いことだ。
いずれにせよ、調査は救急隊員が行った AED 処置時のパッドの位置が対象で、症例数が少ないので有意差と結論できないが、明らかに AP 設置の方が循環回復頻度が高い。特に体重が増えた場合、AP ではほとんど影響を受けないが、AL では体重が増えるとともに循環回復率が低下する。
AED が開発されたとき、AP、AL が比較され、ほとんど有意差がないとして、日本やヨーロッパでは AL のみ指示するようになっている。しかし、このように詳しい調査を繰り返すことは重要で、せっかく設置した AED を有効活用することが重要だと思った。
2番目の論文はニューヨークで進行中の自閉症スペクトラム (ASG) コホート研究で、Covid-19 前後に生まれた子供たちの比較、そして Covid-19 パンデミック中に母親が CoV2 に感染したケースとしなかったケースでの自閉症発症率の比較だ。
まず、Covid-19 パンデミック前と後で、ASD の発症率は変わりがない。驚くことに、パンデミック中に生まれた子供の ASD 発症率が、感染した母親からの子供の方で半減しているという結果だ。
対象の人数の問題で、もっと広範な研究が必要になるが、これが正しいとすると妊娠中のウイルス感染は必ずしも ASD 増加につながらないとする初めての結果だ。全く予想外の結果で、驚いた。
この研究は幼児期のスクリーニング結果だが、例えば我が国では子供が目にする家族以外のほとんどがマスクを着用している状況で育っており、このような環境変化の ASD 発症率に及ぼす変化も今後調べる必要があると思う。