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9月6日 精密な機能的fMRIが明らかにした「うつ」になりやすい脳構造(9月4日 Nature オンライン掲載論文)

2024年9月6日
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光学顕微鏡解像度は原理的限界に近づいていると言われたが、光プローブや解析技術によって高解像度顕微鏡が開発され、この限界は見事に破られた。同じように、脳イメージング技術も大きく進展している。

fMRI は現在は帰国して東北福祉大学におられる小川誠二先生によって開発された MRI 手法で、この方法なしに人間の脳機能の研究の今はなかったと言っていい。ただ、個人レベルの計測ではどうしてもノイズが大きく、例えば同じ人の脳の変化を追跡することは簡単でなかった。この問題を解決するため、複数のエコータムを用いて脳の信号を同時的に収集し、ノイズを軽減するマルチエコー fMRI が開発され、脳活動の正確なマッピングが可能になった。

今日紹介するコーネル大学からの論文は、6人のうつ病患者さんのマルチエコー fMRI (mfMRI) を病気の様々なステージで撮影して、うつ病に特徴的な mfMRI 画像を特定した素人の私でも画期的と思える研究で、9月4日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Frontostriatal salience network expansion in individuals in depression(前頭線条体サリエンスネットワークはうつ病の個人で拡大している)」だ。

研究ではまず mfMRI を用いた安静時脳活動のイメージングから、正常と比べうつ病の患者さんではサイリエンスネットワークと呼ばれる刺激の意義や重要性(サリエンス)を判断して他のネットワーク活動を調整する前頭帯状皮質及び前頭島皮質が、著明に拡大していることを発見している。

人数が少ないので本当か調べる意味で、これまでのシングルエコー fMRI についても検討し直し、うつ病の最大の特徴が、サリエンスネットワークの拡大であることを確認している。

次にサリエンスネットワークの拡大がどのように起こっているのかを調べる目的で、他のネットワークとの関係を調べ、サリエンスネットワークがデフォルトモードネットワークや前頭頭頂ネットワークへと進出し、境界がシフトしていることを発見する。

次がこの研究の最も重要なハイライトになるが、同じ患者さんを症状が異なる時期に調べると、症状とは無関係にサリエンスネットワークが拡大しており、この拡大を単純なデコーダーを用いることで、うつ病診断に用いることができることを示している。さらに、少年時期からのコホート研究で12-3歳で mfMRI を撮影し、その後うつ病を発症したケースでは、うつ病発症前からサリエンスネットワークが拡大していることを発見する。すなわち、遺伝的要因を含め、発達途上でうつ病になりやすい脳が形成されていることがわかり、mfMRI で予測することができることが示された。

そして極めつけは、サリエンスネットワークの機能的結合性を調べて、無気力と前頭帯状皮質ネットワーク、不安症と前頭島皮質ネットワークの結合性が強く相関していることを示している。

以上が主な結果で、うつ病になりやすい脳構造内の結合性の変化により、うつ病が発症するという基本が示された。例えば、うつ病に効く幻覚剤はデフォルトモードネットワークを高めることが知られているが、この結果も新しい目で見ることができるだろう。うつ病の理解の新しい始まりになると待している。

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