痒みを引き起こす過程については随分わかってきた。基本的にはさまざまなメディエーターが分泌され、直接感覚神経を刺激することで起こる。これまで治療が難しかったアレルギー性の痒みも、IL-4 や IL-13 が直接感覚神経に働くことで慢性の痒みの原因になることがわかり、これらに対する抗体治療でアレルギー反応を抑えるだけでなく、痒みを直接コントロールできるようになってきた。
ただ、それでも残る痒みは存在する。例えば、長芋に触れたとき、すぐに襲ってくるかゆみは免疫反応が誘導される前なのでよくわかっていない。今日紹介するハーバード大学からの論文はこのような刺激を受けて痒みを誘導するのが γδ T 細胞と、それが分泌する IL-3 であることを示した研究で、9月4日Nature にオンライン掲載された。タイトルは「A γδ T cell–IL-3 axis controls allergic responses through sensory neurons( γδ T 細胞と IL-3 が感覚神経を通してアレルギー反応を調節する)」だ。
この研究ではすぐにかゆみを誘導することが知られているパパイン投与モデルで、まずこの反応にリンパ球が関わるかから始めている。結果、リンパ球が完全に存在しない Rag2 ノックアウトマウスだけでなく、γδ T 細胞欠損マウスでもこの反応が起こらないことを発見する。
γδ T 細胞欠損マウスではパパインだけでなく、ハウスダスト、真菌、ヒアリや蚊の唾液などによる痒みも抑えられることから、アレルゲンの中には先ずこの経路でかゆみを誘導するものが存在することがわかる。この細胞を培養した上清を注射しておくと、パパインに対する反応がさらに高まることから、皮膚の γδ T 細胞の一部が最初の痒みの閾値を決めていることを発見する。
この発見が研究のハイライトで、あとはこの反応に関わる γδ T 細胞の種類、そして γδ T 細胞が分泌する痒みファクターの特定へと進んでいる。
まず γδ T 細胞だが、single cell RNA sequencing で遺伝子発現を調べると、通常の γδ T 細胞とは明確に異なり、γ4δ2 を発現する γδ T 細胞だが、樹状細胞集団に近いプロファイルを持っている。ただ、樹状細胞を除去してもこの痒みは残ることから、このかゆみはすべてこの細胞によって起こる。
この集団を GD3 と名付けているが、無菌マウスには存在せず、細菌叢との相互作用で誘導される。さらに老化で数は減るが、乾燥皮膚になると数が増えることから、乾燥皮膚のかゆみのかなりの部分がこの細胞による可能性はある。感覚神経がリンパ球の浸潤を促すことも知られているので、 GD3 細胞、感覚神経、そして細菌叢がネットワークを作って、アレルゲンが入ってきたシグナルを感知するシステムを作っていると考えられる。
次に、GD3 細胞が分泌する分子を皮膚で探索し、これまで感覚神経刺激として知られていた IL-4 や IL-13 ではなく、なんと血液幹細胞増殖やマスト細胞増殖に強い活性を持つ IL-3 が責任因子であることを特定する。
また、IL-3 の作用については、感覚神経の一部に IL-3 受容体が発現しており、IL-3 は感覚神経の閾値を変化させ、局所の刺激に反応しやすくなるよう調整していることを明らかにしている。さらに、IL-3 による感覚神経の刺激は、Jak2-STAT5 依存的で、かゆみの閾値変化については Jak2 阻害剤で抑えられる一方、STAT5 の下流は転写を通して substance P 分泌を誘導し、免疫系をアレルゲンの場所にリクルートして、免疫反応を助けることを示している。
以上、もう一度まとめると、痒みの直接刺激はアレルゲンが持っている物質特性(例えば酵素活性など)がおこなうが、その閾値を GD3 細胞が調節して、痒みの感覚を増大するとともに、免疫系を局所にリクルートして、その後のアレルギー反応を誘導するという話になる。人間でなくても痒いと当然ひっかくはずで、この行動も局所に血液細胞の浸潤を助けると思う。
我々のような古い世代は IL-3 を造血因子とマスト細胞増殖因子として位置づけていた。造血の方はこの研究と結びつかないが、マスト細胞はアレルギー反応の中心エフェクター細胞であることを考えると、マスト細胞もこのサーキットに位置づけられるのかもしれない。
また、この反応がアレルギーの最初の最初であることを考えると、IL-3 を抑える治療は意外と大きな効果があるのかもしれない。