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9月7日 生きたマウスの皮膚を透明にして内臓を観察できる(9月6日 Science 掲載論文)

2024年9月7日
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動物の組織を生きたま観察したいという要求に応えるため、ハード、ソフト併せて様々な技術が開発され、脳の光遺伝学的観察に始まり、体内に内視鏡を設置する方法で腸管のクリプトを経時的に観察する研究まで、その進展には目を見張る。

今日紹介するスタンフォード大学からの論文は、内視鏡設置のような侵襲的な方法ではなく、皮膚を透明にして例えば腸の動きを直接観察する方法の開発で、9月6日号 Science に掲載された。タイトルは「Achieving optical transparency in live animals with absorbing molecules(光吸収分子を用いて生きた動物で組織を透明にできる)」だ。

死んだ組織を透明にする技術はクリアリングと呼ばれ、例えば光遺伝学の創始者ダイセロスらが開発したアクリルアミドを用いたハイドロゲル形成によるクラリティーは、よく知られている。しかし、これらの方法はタンパク質の構造を保持したまま、光の透過を妨げる成分を洗い流すことが必要で、当然生きた組織には適用できない。

なぜこの発見に至ったのかが書かれていないが、この研究では食品を黄色く着色させるために広く用いられるタートラジンを水に溶かして皮膚に塗ると、皮膚に赤っぽい色は着くが透明になることを発見する。

タートラジンが着色料として使われるのは、600nm前後の波長を持つ青い光を強く吸収し、それより大きい波長の光を反射するからで、その結果黄色から赤色に着色できる。では、なぜこの色素がマウスの皮膚を内臓が見えるほど透明にできるのかが問題だが、この物理学は私の理解を超えており、ほとんど割愛する。

要するに、波長400nm前後で急速に光を吸収する能力のある色素は、400nm以上の波長の光については散乱を押さえて、透明度を上げるということを、カオス理論ローレンツ方程式を用いて示している。その上で、タートラジンだけでなく、同じような特徴を持つ様々な有機化合物が存在すること、また理論的に同じような挙動が近紫外線領域の波長を吸収する化合物についても予測で来ることを示し、皮膚に塗布すると生きたままマウスの腹部臓器の動きを直接見ることができることを示している。

百聞は一見に如かずなので、括弧内のURL(https://www.science.org/doi/10.1126/science.adm6869)をクリックしていただいて、実際に肝臓や腸が皮膚を通して見ることができることを自分の目で確かめてほしい。

この方法の使い道を示すため、後ろ足の筋肉の蛍光像を、筋繊維の構造レベルまで生きたまま観察し、筋肉運動をモニターできること、そして蛍光ラベルした腸の神経ネットワークをモニターしながら腸の蠕動運動の方向性や大きさをモニターできることも示している。

結果は以上で、理論的考察を行い、同じような特徴を持つ化合物をリストしており、今後組織や観察する光の波長ごとの生体透明化技術が可能であることを示している。おそらくそれぞれの分野でさまざまな使い道が構想できると思うが、面白い。

もし人間でもこんなことが可能になれば、腹の探り合いも無くなるだろうし、ぜひ政治家の腹の中も見てみたい。

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