過去記事一覧
AASJホームページ > 2024年 > 9月 > 9日

9月9日 ピロトーシス誘導によるガン治療の可能性(9月6日 Cell オンライン掲載論文)

2024年9月9日
SNSシェア

炎症刺激により細胞に穴が空き、そこから様々な分子がこぼれでて、さらに炎症を悪化させる細胞の死に方をピロトーシスと呼び、炎症をなるべく起こさないように静かに死んでいくアポトーシスと区別している。もちろん生体にとって炎症は諸刃の刃だが、ガン免疫から見ると、ガン細胞がピロトーシスで死んでくれて、炎症が広がるとともにガン抗原が組織に漏れ出て、強い抗原刺激が起こることは望ましい効果といえる。ただ、多くの抗ガン剤や放射線はアポトーシスを誘導することが多く、ピロトーシスは期待できない。

今日紹介するハーバード大学からの論文は、ピロトーシスに関わるガスデルミンの一つ GSDMD を直接活性化する化合物により、ガンにピロトーシスを誘導する開発の研究で、9月6日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Small-molecule GSDMD agonism in tumors stimulates antitumor immunity without toxicity(小分子化合物による GSDMD 活性化は毒性なしにガン免疫を刺激する)」だ。

我々は6種類のガスデルミン分子を持っているが、最もよく研究されているのは GSDMD で、特に細菌感染時にピロトーシスを誘導して、免疫を高めることが知られている。このとき、汗腺刺激でインフラマゾームが形成され、これが GSDMD 分子の一部を切り出すことで、自己抑制が外れて細胞膜に孔を形成するよう分子の集合が起こり、その孔を通って細胞内から炎症物質や抗原が流出する。

この研究では GSDMD を切断することなく抑制を外して孔を形成させる分子を探索、GLP-1 受容体活性化分子として知られていた 6,7-dichloro-2-methylsulfonyl-3-N-tertbutylaminoquinoxaline (DMB) を特定する。

この分子は GSDMD の191番目のシスティンに結合することで GSDMD を活性化し、タンパク質の切断なしに細胞膜に穴を開けることを確認する。

あとは、この作用がガン抑制に使えるか、GSDMD を発現している乳ガン株を移植する実験系を用いて調べている。驚くのは、DMB 注射だけで効果があることで、腹腔内注射によりガン増殖を抑制することができる。この抑制には免疫システムが必須で、DMB 投与により腫瘍局所へのキラーT細胞やNK細胞の浸潤が認められる。また、腫瘍から GSDMD 遺伝子を除くと、この効果は消える。

さらに、少ない量の DMB 投与をチェックポイント治療と組み合わせると、それぞれの単独投与がほとんど効かないガンでも抑制することができる。面白いのは、ガン細胞を試験管内で DMB 処理したあと、ガン細胞で免役すると、ガンワクチンのようにガンに対する免疫反応を誘導できる。

一方、副作用だが、この量の腹腔投与ではサイトカインストームなどは起こらないと結論している。

結果は以上で、メカニズムがわかったので、化合物の方をさらに設計し直すことで、より高い活性を持つ化合物へと発展させられるだろう。その過程で、GLP-1 アゴニストの作用も除去できるかもしれない。その上で、患者さんを用いた治験に進むことになるが、これにはまだまだクリアすべき問題がある。

もともと GSDMD が発現している方が予後がいいガンもあるが、多くのガンは GSDMD が高いと予後が悪い。おそらく炎症をガンが味方に引き寄せている可能性がある。従って、このような何もしないと予後が悪く、GSDMD を高発現しているガンを用いて、より強いピロトーシスの誘導がガン免疫を高めることを示すのが重要だと思う。これが可能なら、利用できるガンは多い。

次に副作用がないとしているが、全身投与よりは局所投与の方が良さそうに思える。おそらくネオアジュバントチェックポイント治療の機会に、まず局所投与によるピロトーシス誘導、免疫増強のあと、切除というプロトコルが一番良さそうな気がする。いずれにせよ、直接ピロトーシスを誘導できるこの化合物は、ピロトーシスの生理活性を調べる意味で重要なことは言うまでもない。

カテゴリ:論文ウォッチ
2024年9月
 1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
30