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9月24日 脊髄中心部の神経 CSF-Ns が上衣細胞の増殖を調節する(9月18日 Nature オンライン掲載論文)

2024年9月24日
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大学で医学を学び始めてからもはや60年以上になろるが、それまで全く聞いたこともなかった細胞があることに気づかされることがしばしばだ。これは、我々の身体が細部に至るまで精巧にできており、場所場所に機能が特化した細胞を分化させていることを示している。

今日紹介するカリフォルニア大学サンフランシスコ校からの論文も、全く初耳の細胞 cerebrospinal fluid-contacting neuron (CSF-Ns) の機能についての研究で、9月18日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Endogenous opioid signalling regulates spinal ependymal cell proliferation(内因性のオピオイドシグナルが脊髄の上衣細胞増殖を調整する)」だ。

脳脊髄液を通す脊髄内の回路の一つが脊髄内の中心管で、回りは上衣細胞によって取り囲まれている。この上衣細胞ライニングに割り込むように存在しているため cerebrospinal fluid contacting と名前がついたのが CSF-Ns で、鼻粘膜に存在する嗅覚細胞に似ている。ゼブラフィッシュでは脊髄の曲がりを検知して運動調節に関わる可能性が示唆されるが、脊髄を動かして運動をしない動物での機能はわかっていない。

この研究では、この細胞を特異的に染色する方法を追求し、最終的にこの細胞を脊髄から純化することに成功し、RNA発現解析からこの細胞が κオピオイド受容体を発現していることを突き止めている。次に、この受容体に結合するオピオイドの発現を探り、隣接する上衣細胞がディモルフィンをはじめとするいくつかのペプチドを発現し、κオピオイド受容体を刺激することを発見する。

脊髄組織を切り出して、CSF-Ns の興奮を生理学的に調べ、この細胞が上衣細胞から分泌されるオピオイドにより常に刺激されていること、この自然興奮反応を κオピオイド受容体阻害剤で抑えることができることを明らかにしている。一方刺激剤では自然発火は上昇しないので、上衣細胞からのオピオイドから十分な刺激が常に提供されていることを明らかにする。

次はこの自然興奮の機能だが、上皮との密接な関係から、CSF-Ns の自然興奮が上衣細胞の増殖を調節しているのではと着想し、CSF-Ns を除去、あるいはオピオイド受容体の阻害実験を行い、CSF-Ns が上衣細胞の増殖をGABA分泌を介して抑制しており、この経路が抑えられると上衣細胞の増殖が上昇することを発見する。

上衣細胞は脊髄損傷時に増殖することが知られているが、このときオピオイドシグナルを刺激剤で活性化すると、上衣細胞の増殖が抑えられる。すなわち損傷時に上衣細胞の増殖が高まるのは、損傷によりCSF-Ns からの抑制が外れることが一部寄与している可能性が示された。

そこで、脊髄損傷後長期にわたってオピオイドを接種させ脊髄組織と機能を調べると、刺激剤により上衣細胞増殖は抑えられ、損傷後の瘢痕も抑えられる。ただ、このままでは運動機能は何もしないで瘢痕形成が起こるマウスと比べると、明らかに低下する。

以上が結果で、オピオイド刺激剤や阻害剤をうまく使って脊髄損傷の瘢痕化を一定程度抑制して再生を促すという実験があるかと期待したが、残念ながら示されていない。ただ、少なくともオピオイドで調節可能な脊髄損傷治癒過程があることは間違いなく、炎症抑制とともに今後重要な標的になると期待する。

いずれにせよ、新しい細胞を一つ勉強できた。

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