過去記事一覧
AASJホームページ > 2025年 > 3月 > 20日

3月20日 STING機能の複雑さ(3月20日 Cell掲載論文)

2025年3月20日
SNSシェア

今日は専門家向けの論文を紹介するが、できるだけ解説部分を多くするとともに、実験の詳細を省いて結論を紹介するようにする。

我々の細胞は細菌などの外来刺激に対して炎症誘導という形で最初に反応するが、これを抗原特異的免疫に対して自然免疫と呼んでいる。例えばバクテリアの LPS には細胞表面の TLR4 が反応して炎症反応を誘導するが、細胞内に入ってきた DNA は GAS-STINGシステムという DNAセンサーが働いている。このシステムは進化的に古く、バクテリアが外来のウイルスやプラスミドを排除する仕組みに由来している。生化学的には、GAS によって DNA から cyclicGMP-AMP が合成され、これが小胞体膜上の STING に結合するとTBK1、IRF3を介して炎症を誘導するとともに、ウイルスに対してインターフェロンを分泌する。

ところが最近、 STING が小胞体からプロトンを汲み出す全く別の機能があることが報告された。今日紹介するペンシルバニア大学からの論文は、重篤な炎症疾患が起こる STING の変異が、従来の IRF3 などインターフェロン下流シグナル経路とは異なる経路で炎症を誘導している分子機構を探るなかで、STINGの新しい機能メカニズムを解明した研究で、3月20日 Cell に掲載された。タイトルは「ArfGAP2 promotes STING proton channel activity, cytokine transit, and autoinflammation(ArfGAP2 は STING のプロトンチャンネル活性を高め、サイトカインの輸送促進を介して自発的炎症を誘導する)」だ。

この研究では GAS を介さずに STING が勝手に活性化している変異を導入したマウスを作成し、クリスパースクリーニングで、ArfGAP2 をノックアウトすると、変異STING の活性化による細胞死を回避できることを発見する。

ArfGAP2 はこのように変異STING活性を強く抑えるが、ノックアウトしても通常のインターフェロン経路には全く影響がない。ただ少しややこしいが、STING・IRF3経路により誘導される様々なサイトカインの分泌は抑えるので、おそらく STING のプロトンチャンネル活性にかかわる機能に関与して、しかもサイトカインの転写ではなく分泌を調節すると考えられる。

この可能性を追求して最終的に次の結論に到達している。

  1. STING は活性化されると、TBK1/IRF3 を介してインターフェロン反応性の様々なサイトカインの転写を誘導する。
  2. これとともに、STING のプロトンチャンネルが開いてゴルジ体の酸性度が低下する。
  3. このアルカリ化シグナルがゴルジから膜への小胞体輸送を促進し、これによりインターフェロン反応性分子も輸送される。
  4. ArfGAP2 がノックアウトされると、STING のプロトンチャンネル活性が低下し、ゴルジでの小胞体輸送が落ちる。
  5. ただ、ArfGAP2 は何らかの過程で、小胞体に乗せるタンパク質をインターフェロン反応性分子が優先されるように調整する役割も持っている。事実、ArfGAP2 非存在下で STING が活性化してしまうと、調整されずにほとんどの分子が輸送されてしまう。

以上が結果で、かなり専門的な論文を簡単にまとめすぎたとは思うが、STING が新たに獲得したプロトンチャンネル活性が、免疫系やマクロファージで、サイトカイン分泌のファインチューニングを可能にしていることを示す重要な論文だと思う。特に持続するウイルス感染などで、過剰炎症を抑える目的でArfGAP2 は重要な標的になると思う。

カテゴリ:論文ウォッチ
2025年3月
 12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930
31