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2月15日 DNAとタンパク質のクロスリンクと老化(1月29日号 Science 掲載論文)

2026年2月15日
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反喫煙の社会的取り組みがそろそろ一段落してきたところで、最近は反アルコールの様々なキャンペーンが医学界を中心に進んできたように感じる。タバコについてはキャンペーンのおかげでやめることが出来たが、現在の生活スタイルから考えて、アルコールをやめるのはおそらく難しい気がする。ただ、量を問わずアルコールが身体に良くないことはよく理解している。アルコールの毒性の要因の一つは、アルコールデハイドロゲナーゼにより生成するアセトアルデヒドがタンパク質同士やタンパク質と核酸をクロスリンクさせることにある。これを防ぐ為に、我々はADH2分子でアセトアルデヒドを分解するが、加えてクロスリンクされたタンパク質と核酸の複合体を分解するSPRTNと呼ばれる分解酵素を備えている。

SPRTNの変異はルイイス-アールフス症候群 (RJAKS) と呼ばれる早老症の原因になるが、今日紹介するドイツ・フランクフルト大学からの論文は、SPRTNの異常がRJAKSの様々な症状を示すメカニズムを明らかにした研究で、1月29日 Science に掲載された。タイトルは「DNA-protein cross-links promote cGAS-STING–driven premature aging and embryonic lethality(DNA-タンパク質のクロスリンクは cGAS-STING による早老症と胎児死亡の原因になる)」だ。

まず細胞株の遺伝子操作でSPRTNを自由に分解する実験系で、SPRTN が除去されるとS期とM期でクロスリンクが蓄積すること、またSPRTNと結合するタンパク質を調べ、M期ではトポイソメラーゼやKI67、S期ではHMGA1やHMGA2など、細胞周期に応じたタンパク質がクロスリンクされSPRTNの標的になっていることを明らかにする。

もちろんDNA上にタンパク質が居座ってしまうと、細胞分裂に大きな問題が生じる。特に分裂期の異常が起こり、その結果分裂中に染色体がちぎれて出来る小核形成が起こる。また、ヒトRJAKSの変異に相当する変異を誘導したマウスから肝臓ガン細胞株を樹立し、同じように細胞分裂期での停止が起こり、小核が形成されること、そして特にこの小核で修復されないで残存するDNA損傷が蓄積することを明らかにする。

このように、核外に小核というかたちでしかもDNA損傷が起こったままのDNAが存在すると、cGAS-STINGを刺激して自然免疫が誘導されることが予想される。実際、突然変異型SPRTNを持つRJAKSモデルマウスでは強く自然免疫反応が誘導され、インターフェロンレベルが上昇することを確認している。また、同じような異常は変異がないマウスでも、メタノールを摂取させてクロスリンク作用の強いフォルムアルデヒドを生成させるだけで起こることも示している。

これらを総合すると、RJAKSはSPRTN変異による細胞の分裂異常と、その結果起こる損傷を残したままのDNAによる炎症が症状を形成していることになる。ただRJAKSではどちらの要因が早老症に強く影響しているかを調べるため、変異マウスをcGASノックアウトマウスと掛け合わす実験を行い、炎症を止めると早老症をある程度抑止できることを示している。

また、変異マウスは胎児期に死亡するケースが多く、8%しか生まれてこない。ところがcGASノックアウトやSTINGノックアウトと掛け合わせることで、胎児期の死亡率も減らすことができる。以上から、RJAKS変異では、分裂異常は起こっても(実際ガンの発生率が高い)なんとか様々な方法で処理できているが、cGAS-STING 刺激による自然炎症の亢進が、胎児期から身体を老化させる主原因である事が明らかになった。

以上が結果で、自然炎症を遺伝的にうまくコントロールすることで長生きするハダカデバネズミを見るにつけ、老化における自然免疫の役割の重要性を実感する。もちろんハダカデバネズミでもSPRTNはしっかり働いていると思うが、さらにcGAS変異でDNA修復効率まで上がっているのを見ると、早老症を知ることが長寿を知ることだと確信する。

カテゴリ:論文ウォッチ
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