腫瘍細胞にウイルスを感染させて殺してしまう治療法補開発は、20世紀後半からずっと進んできた。腫瘍細胞ではよく増殖し、正常細胞では増殖しにくいように細工したウイルスが使われ、多様なOncolyticウイルスが開発されている。ただ、いくら腫瘍特異的と言っても、全てのガン細胞に感染し全て殺してしまうことは至難の業と言える。そのため、一時開発は停滞したが、その後ガン免疫のパワーが再認識されると、ガン免疫を誘導するきっかけとしてOncolyticウイルスを用いる可能性が生まれ、結果現在では400種類以上の臨床治験が行われる大ブームになっている。
今日紹介するハーバード大学からの論文は、まさにこのトレンドを科学的にバックアップするための研究で、ヘルペスウイルスを用いたグリオブラストーマ治療により腫瘍局所で起こる免疫反応を、CODEX及び Xenium として知られる最先端の組織学テクノロジーを使って調べ、Oncolyticウイルスがガンに対する免疫を強く誘導していることを明らかにしている。タイトルは「Persistent T cell activation and cytotoxicity against glioblastoma following single oncolytic virus treatment in a clinical trial(一回oncolyticウイルス感染を感染させるグリオブラストーマの臨床治験から持続的な腫瘍に対するT細胞活性化と細胞障害性が明らかになった)」だ。
研究では16人の再発性のグリオブラストーマの主要部位に直接ガン特異的に増殖する単純ヘルペスウイルスを感染させる治験を行っている。この時治療前のバイオプシーと治療後の腫瘍切除標本を集め、これをこのブログでも以前紹介した(https://aasj.jp/news/watch/8803)CODEXと呼ばれる同時に何種類もの抗体を用いる分子発現検査と、Xeniumと呼ばれる拡散プローブを用いた多重分子発現検査を組み合わせて、腫瘍と様々なリンパ球との関係を調べ上げている。組織をバラバラにして調べる single cell テクノロジーと異なり、空間的情報が全て保持されているため高いレベルの情報が得られる。
まず、ほとんどの症例で腫瘍内へのCD8及びCD4T細胞の浸潤は10倍近く上昇し、しかも9ヶ月以上維持されている。それぞれのリンパ球の遺伝子発現から、キラー活性に関わるグランザイムが腫瘍近くのT細胞で発現していることも確認でき、間違いなく腫瘍に対するキラー反応が発生している。
腫瘍とT細胞の空間的関係を調べると、キラー活性を発揮するエフェクターは腫瘍内に潜り込んで反応している。また腫瘍内で新たなキラーT細胞を呼び込むケモカインを発現しており、新たなT細胞をリクルートする構造ができあがっている。面白いのは、新しいT細胞を供給するリザーブとも言える集団は、腫瘍から離れたところに存在して、そこからT細胞を腫瘍に供給している点だ。腫瘍内にはマクロファージの浸潤があるので、これが移動してリザーブを刺激していると考えられる。
ウイルス遺伝子を調べると、腫瘍が壊死に陥った部分にウイルスが存在するが、T細胞からは離れていることから、これまで議論されていたようなウイルスに対する免疫反応が腫瘍を傷害しているとは考えにくい。実際、T細胞のレパートリーを調べると、ウイルスに対する反応はほとんどないと考えられる。即ち、最初からガンに対するT細胞がウイルスにより細胞障害が始まることで急速な増殖を行い、残っているガンを傷害していることがわかる。
だとすると、全ての患者さんが免疫のおかげで治ることになる。実際、腫瘍内でT細胞が増殖しているほど予後は良さそうだが、しかしグリオブラストーマに対しては免疫も完全ではない。T細胞が存在しない腫瘍ゾーンを調べると、特に線維芽細胞様の形態をとり、低酸素により誘導される遺伝子が発現している領域からT細胞が完全に排除されている。この結果、免疫から逃れるガンが発生する結果、免疫治療が限定されることになる。
以上が結果で、実際には様々な情報が得られた研究だが、免疫の可能性とともに新しいガンのしたたかさが明らかになった。このガンのしたたかさを狙った治療を開発することが次の段階になるが、グリオブラストーマも徐々にではあっても治療が可能なガンになりつつある。
