過去記事一覧
AASJホームページ > 2026年 > 2月 > 21日

2月21日 アフリカ縞マウスに学ぶオスの子育て= “育メン” のメカニズム(2月18日 Nature オンライン掲載論文)

2026年2月21日
SNSシェア

ヨザルなど一部の哺乳動物を除くと、ほとんどの哺乳動物の子育てはメスの役目になっている。それどころか、例えばライオンなどではメスの発情を促すため、メスが育てている子供を殺すことも観察される。

今日紹介するプリンストン大学からの論文は、“育メン” 行動で知られるアフリカ縞マウスを用いてこれに関わる脳領域と育メンを押さえる分子として Agouti を特定した面白い研究で、2月18日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Agouti integrates environmental cues to regulate paternal behaviour(Agouti は外界からのシグナルを育メン行動へと統合する)」だ。

子育てをするオスマウスに育メンとはおかしい使い方とは思うが簡単なのでこれで通す。さて、タイトルにある Agouti は元々マウスの毛色を示す言葉に由来しており、色素細胞がメラニン刺激ホルモンでメラニンを発現するのを抑制することで、毛色が茶色にする分子として知られている。一方で、脳内で発現するアグーチ関連タンパク質は食欲を刺激するペプチドとして働いている。

さて、この研究は縞マウスが実験室でも育メンする条件を検討し、離乳した後単独で生活すると、他のオスと一緒に生活する場合より育メン行動が刺激され、逆に子供を殺すことはほとんどなくなることを発見する。

次に単独で生活して育メン行動が刺激されたマウスと他の個体と一緒に生活して育メン行動を示さないマウスの脳で、興奮状態に差が見られる場所をFosの発現で調べ、まさにメスの子育てに関わる領域、内側視索前野 (MPOA) が、育メンオスでも興奮することを発見する。

通常なら、光遺伝学を駆使してこの領域を操作する実験が続くのだが、野生マウスではそうはいかない。まずこの反応が幼児と出会う事で誘導され、育メン行動の場合神経興奮によりFosだけでなくEgr1が誘導される。一方、集団で生活し、幼児に会って殺す行動をとる場合は、FosとともにArcが発現することを確認する。

このことから、MPOAではそれ以前の生活スタイルで神経刺激ペプチドの微妙なバランスが変化しているとにらんで、育メンと子殺しの脳の遺伝子発現を比べる過程で Agouti が育メンで最も強く押さえられるペプチドである事を発見する。即ち、Agouti が高まると育メンをやめ子殺し行動をとる。

この結論が正しいかどうか、アデノ随伴ウイルスを用いてAgouti遺伝子をMPOAで過剰発現させる実験を行っている。まず、育メン行動、あるいはまだ行動が定まっていないマウスMPOAに Agouti を過剰発現させる事件を行うと、行動が定まっていないマウスでは全て子殺し行動をとる。ただ、育メンマウスに発現させても子殺しには移行しない。

後は Agouti が持っている他の機能を介して2次的に育メン行動が誘導されているわけではないことを、食欲をコントロールする実験などを通して確認している。

以上が結果で、Agouti 以外のペプチドについては実験が出来ていないので、育メンを誘導するメカニズムについては完全に明らかになった訳ではないが、今後は例えばオキシトシンなどメスの母性行動を誘導する仕組みを参考に詰めていく必要があるだろう。

いずれにせよ、野生マウスの行動を一定レベルの神経科学へと発展させた面白い研究だ。

カテゴリ:論文ウォッチ
2026年2月
 1
2345678
9101112131415
16171819202122
232425262728