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4月1日 寄生虫感染が食欲を低下させる理由(3月25日 Nature オンライン掲載論文)

2026年4月1日
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腸管上皮に存在するタフト細胞についてはこのブログでも何回も取り上げてきた。寄生虫感染により刺激され、type2免疫反応を誘導するだけでなく、この経路とは別にタフト細胞自体が腸上皮へと分化して完全なオルガノイドを形成する幹細胞機能を備えているという、Hans Cleaverの驚くべき研究も紹介した(https://aasj.jp/news/watch/25361)。ただ、寄生虫感染からtype 2免疫反応 (T2I) までの詳しい分子カスケードについては研究が進んでいなかった。と言うのも、そのためには神経生理学に近いレベルの細胞刺激実験が必要で、腸管免疫の研究者にはハードルが高い。

今日紹介するカリフォルニア大学サンフランシスコ校からの論文は、パッチクランプ法も含めて神経生理学の方法を駆使して、寄生虫感染、タフト細胞刺激、T2Iから迷走神経刺激による食欲減退まで、見事なシナリオを提示した研究で、」4月1日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Parasites trigger epithelial cell crosstalk to drive gut–brain signalling(寄生虫は腸上皮の相互作用を高めて腸脳シグナルを誘導する)」だ。

タフト細胞の不思議さは神経細胞でもないのにアセチルコリン合成能力を持っている点で、寄生虫などの刺激も全てアセチルコリン分泌を介して他の細胞に伝えていると考えられている。この研究ではまずタフト細胞のアセチルコリンによる腸上皮 (EC) の反応を、オルガノイド培養や、単一細胞レベルの生理学的解析を用いて調べ、タフト細胞が寄生虫の分泌するコハク酸などに反応してアセチルコリン分泌を高め、シナプスは形成していないがムスカリン受容体を介してECを刺激し、その結果ECの重要なメディエータであるセロトニン分泌が誘導されることを明らかにしている。腸を培養してECのセロトニン分泌を単一細胞レベルで観察すると、どのECでも反応するわけではなく、クリプトに存在するECだけがセロトニンを分泌できる。

次にタフト細胞のアセチルコリン分泌刺激過程を、単一タフト細胞をパッチクランプ法を用いて調べ、寄生虫が分泌するコハク酸で刺激されると、細胞内にCaが放出され、これによりTRPM5チャンネルが活性化されアセチルコリンの分泌が高まることを確認している。これは寄生虫に対する急性の反応だが、その後寄生虫感染が続くとT2Iが誘導される。この時分泌されるIL-4をオルガノイド培養に作用させると、タフト細胞の増殖とともに、急性刺激では得られない長期間だらだら続くアセチルコリン分泌が誘導されることを示している。その結果、一過性のアセチルコリン刺激では起こらない大量のEC細胞によるセロトニン分泌が起こることも、オルガノイド培養で明らかにされている。

最後に、何故寄生虫感染で食欲が落ちるのに、例えばタフト細胞を一過性に刺激するだけでは脳に影響が及ばないのかについて調べている。その結果、迷走神経の感覚端末はアセチルコリンやセロトニンで活性化されるが、実際の腸管で脳に影響を及ぼすほどの迷走神経刺激を誘導するためには、長い期間EC由来のセロトニンの刺激にさらされる必要があることを明らかにしている。すなわち、寄生虫感染初期におこる一過性のタフト細胞刺激では、迷走神経から脳孤立核の変化を誘導するには足りない。しかしT2Iが誘導され、IL-4の影響でタフト細胞の数が増え、しかも長期間アセチルコリンが分泌されるようになると、迷走神経が刺激され、この結果脳の孤立核の細胞が興奮して食欲減退や吐き気が起こることを示している。

以上が結果で、腸管を神経系を扱うのとおなじ方法で生理学的に調べる研究は新鮮な驚きがある。それぞれの経路は既に調べられていたことかも知らないが、単一細胞レベル、あるいは定量的実験でしっかり証明しているのがすばらしい。

カテゴリ:論文ウォッチ
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