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4月7日 GLP-受容体アゴニストの適用の拡大(4月2日 Nature Medicine オンライン掲載論文)

2026年4月7日
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2025年のGLP-1受容体アゴニスト (GLP-1RA) の世界総売上は628億ドル(ほぼ10兆円)を超したと言われている。そして、糖尿病から肥満と拡大してきたGLP-1RAの適用をさらに拡大する研究が進んでいる。事実、動脈硬化性心疾患の予防に関してはGLP-1RAの効果を疑う人はいないと思う。私のような高齢者には、サルコペニアを誘導するのではという心配が示唆されていたが、最近の論文を読むと高齢者に使っても、十分な効果が得られるという論文も多い。これらは、体重減少や代謝改善と相関が強い分野だが、代謝にとどまらず認知症にも効果がある可能性すら議論されている。このような論文を次から次へと読んでいると、糖尿病の私も、治療としてGLP-1RAを使ってみようかと考え始めている。

そこで今日は、最近目にしたGLP-1RAの適用拡大を検討する論文を3編まとめて紹介することにした。最初は Novo Nordisk からの論文で脂肪肝から線維化が進んでいる患者さんへのGLP-1RAの効果を調べた研究で、4月2日 Nature Medicine にオンライン掲載された。タイトルは「Semaglutide on liver fibrosis and heart outcomes in patients at high risk of liver fibrosis: a prespecified analysis of the SELECT randomized trial(肝臓線維化のハイリスクグループの肝臓の線維化と心臓イベントへの semaglutide の効果:SELECT無作為化試験の事前設定解析)」だ。

3編とも手短に紹介するが、この論文のキーは、最近バイオプシーなしに肝臓の線維化状態を予測できるFibrosis-4 (FIB-4) を用いいて、肥満に伴う代謝異常から脂肪肝、そして線維化へと進行していく過程を層別化し、線維化ハイリスクの患者さんへの semaglutide の効果を調べた点だ。

これまでの研究と同じで、肝臓の線維化のリスクが高い患者さんも、心臓発作などのイベントに見舞われる確率を強く抑えることができる。特に FIB-4 が2.67以上と、心臓の様々なイベントに見舞われるリスクが高い人ほど semaglutaide の効果が高い。

GLP-1RAは体重増加を抑え、炎症も抑えることが知られているので、インシュリン感受性等の代謝を改善し、自然炎症を抑えることが心臓イベントを防いでいることは間違いない。ただ、FIB-4検査の基礎となるいわゆる肝臓細胞由来の酵素、ALTやAST、そしてGGTなどが早期に改善することから考えると、肝臓の線維化を防ぐことも心臓イベントを防ぐのに大きく寄与しているのではと結論している。

最初の論文も、インシュリンやグルカゴンの分泌に関わる消化管ホルモンとして登場したGLP-1RAが、インシュリンの分泌誘導を超えた様々な作用を持つことを示す例だが、それをもっと明確にしたのが次のジョンズホプキンス大学からの論文で、β細胞が消失してインシュリン合成できず、血糖維持にインシュリン注射が必要な1型糖尿病患者さんでもGLP-1RAの効果が見られることを示した研究で、3月19日 Nature Medicine にオンライン掲載された。タイトルは「Glucagon-like peptide-1 receptor agonists for major cardiovascular and kidney outcomes in type 1 diabetes(1型糖尿病患者の主要な心臓や腎臓疾患予後に関するGLP-1RAの効果)」だ。

1型糖尿病は小児期に始まるため、無作為化した治験でGLP-1RAの効果を調べるのは簡単でない。そこで電子カルテの情報をベースに、模擬無作為化試験を行い、GLP-1RAを投与された群と投与されなかった群で、主要な心臓イベントの発生と、腎不全の進行を5年にわたって調べている。

結果はドラマチックというわけではないが、心臓イベントや腎臓病の進行をGLP-1RAで抑えることができる。比率にして25%程度発症率が低下する。このように1型糖尿病患者さんで調べることで、インシュリン分泌誘導とは全く別にGLP-1RAが作用することがわかる。また、GLP-1RAを投与しても、低血糖発作が起こりやすくなることは全くなく、これもGLP-1RAの効果がインシュリンとは全く無関係である事を示している。しかしこの結果をベースに、1型糖尿病ではGLP-1RAを念のために処方するという話になるのか、悩ましい。

最後はエジンバラ大学を中心とする研究グループの論文で、GLP-1RAのうつ病、不安症、そして自殺など自傷行為に対する影響を調べた研究で Lancet Psychiatry 4月号に掲載された。タイトルは「Association between GLP-1 receptor agonist use and worsening mental illness in people with depression and anxiety in Sweden: a national cohort study(スエーデンのうつ病及び不安症の患者さんでの、GLP-1RA使用と神経疾患悪化との関係:国内コホート研究)」だ。

GLP-1RAの適用の拡大を目の当たりにすると、どんな病気でもともかく使ってみようということになるのだろう。精神疾患についても効果を調べた論文が存在する。ただ、明確な結果は得られていない。この研究も通常の治験ではない。スエーデンの患者さんの電子カルテから、うつ病と不安神経症の患者さんを選び出し、その中から semaglutide をはじめとする様々なGLP-1RAを使用した患者さんと、使用しなかった患者さんの精神疾患の経過を詳しく調べている。もちろんGLP-1RAを使用した患者さんは、精神疾患に加えて糖尿病と診断されていることになる。そのため、他の様々な糖尿病薬も使われており、GLP-1RAの効果を正確に判断するには問題はある。ただそれを認めた上で、結果は面白い。

うつ病について見ると、全くGLP-1RAを使っていない患者さんに対して、Semaglutide、dulaglutide、Liraglutide の順で、うつ病の悪化を抑える作用が確認された。そして何よりも驚くのは、ヒトGLP-1との相同性が最も低いドクトカゲ由来の Exenatide では、他のGLP-1RAと比べて逆にうつ病が悪化する点だ。

不安神経症で見てみると、semaglutide が病気の悪化を防ぐ効果が最も大きく、次いで linaglutide が続くが、dulaglutide と exenatide は逆に悪化させる。ところが、自傷行為だけについてみると、全てのGLP-1RAはほぼ同じ程度に自傷行為を防ぐことがわかった。

さらに不思議なのは、他の糖尿病薬としてSGLT2阻害剤、及びDPP-4阻害剤のうつ病と不安神経症への効果をも調べているが、これらの糖尿病薬は症状を悪化させる方に働いている。

以上が結果で、この結果を説明するのは一筋縄ではいかない。そもそも、何故うつ病に semaglutide が最も効くのかを説明するためには、動物実験を含め多くの研究が必要だと思う。いずれにせよ、GLP-1RAと言っても、インシュリン分泌や体重への作用を切り離すと、これほど異なるのかと驚く。10兆円を売り上げるGLP-1RAも適用拡大だけでなく、まだまだ基礎的研究が必要だ。

カテゴリ:論文ウォッチ
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