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4月28日 上皮接着機構を絶妙に支配するBacteroides fragilis(4月22日 Nature オンライン掲載論文)

2026年4月28日
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上皮細胞では、アピカル面、基底外側面、そして基底面が明確に区別されるが、この区別の核になるのが規定外側面のアピカル側に形成される細胞接着構造だ。この細胞接着機構の解明に我が国の貢献は大きい。接着斑にはアピカル側から、タイトジャンクション、アドへレンスジャンクションが存在するが、タイトジャンクションを形成する接着分子クロージンを最初に特定したのは、ちょうど20年前に膵臓ガンで亡くなった月田承一郎で、アドへレンスジャンクションの接着分子は竹市雅俊により特定、遺伝子クローニングが行われた。月田さんは京大医学部教授に同じ時に就任し、また竹市さんは一緒に苦労して神戸理研を立ち上げたので、日常の付き合いを通してその研究の偉大さに身近に触れることが出来た。昨日話に出てきたネトリン1 による上皮間質転換も、彼らにより上皮の分子構造がわかったおかげで理解できるようになった。

今日紹介するジョンズホプキンス大学からの論文は、クロージンとカドヘリンをうまく利用することで上皮を破壊する細菌 Bacteroides fragilis についてのむちゃくちゃおもしろい論文で、4月22日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「A pro-carcinogenic bacterial toxin binds claudin-4 to cleave E-cadherin(ガン発生を促進するバクテリアトキシンはクロージン4と結合してEカドヘリンを分解する)」だ。

この研究は別に細胞接着を研究しようとしていたわけではない。私も知らなかったが、大腸ガンのリスクを高めることが知られている腸内細菌 Bacteroides fragilis (FG) は、Eカドヘリンを細胞膜上で切断し、その結果バリア機能を壊すだけでなく、Eカドヘリンに結合していたβカテニンが核内により移行しやすくなり、上皮の異常増殖を誘導することが知られていた。

このようにBFの面白さ第一は、Eカドヘリン切断するトキシン (BFT) が、バクテリア由来のタンパク分解酵素とは全く異なり、我々のADAMメタロプロテアーゼに近く、おそらく腸管細胞から水平遺伝子伝搬で移行し、進化してきたと考えられる点だ。ウイルスに我々の遺伝子が取り込まれることは広く知られているが、バクテリアもホストから遺伝子を調達して、用途をファインチューンするとは驚く。

ただ、BFがBFTを分泌すればEカドヘリンが分解されるという単純な話では無いということがわかっており、Eカドヘリンを分解するためには接着斑に高レベルのBFTを到達させる必要がある。この分子基盤を明らかにするため、CRISPR/Cas9 を用いた網羅的遺伝子ノックアウトを行い、高濃度のBFTによるEカドヘリンの分解が起こらなくなる分子を探索すると、細胞膜への分子輸送に関わる遺伝子とともに、クロージン4が特定されてきた。

クロージン4は当然接着斑に移行するので、BFTを接着斑に濃縮するためのまさにドンピシャの分子が特定されたわけで、クロージンに絞ってEカドヘリン分解までのメカニズムを探っている。まず、クロージン4に相同性の高いクロージン3に同じ作用が存在するか、細胞レベルのノックアウト実験を用いて調べ、相同性は高くても、BFのEカドヘリン分解には補助的役割しか存在しないことを確認している。また、カドヘリンやクロージンを発現していない細胞に、カドヘリンとクロージンを再構成する実験で、クロージン4存在下でのBFTによるカドヘリン分解が起こること、そしてクロージン4が細胞膜上でBFTと1対1で直接結合していることを様々な方法で明らかにしている。

以上の実験から、BFから分泌されるBFTは細胞表面上で接着斑を形成していないクロージン4と結合したあと、接着斑へと移行して接着斑のEカドヘリンに近づき、分解すると結論している。とすると、クロージン4を大量に腸内に供給すればBFTの毒性は中和されるはずで、マウスを用いて実験を行うと、完全ではないがBFT投与による炎症のレベルを半分程度に抑えることを示している。

以上が結果で、ホストから調達したBFTをホストの分子に合わせて進化させ、腸上皮の基本とも言える接着斑形成を抑制するとは、最近の驚くべき力を知ることができた。おもしろい。

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