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4月11日 手作りスーパーエンハンサーを用いたガン治療(4月8日 Nature オンライン掲載論文)

2026年4月11日
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最近、強い遺伝子発現を誘導出来るエンハンサーのデザインする場合、AlphaGenome 等を用いた AI デザインになるのかもしれない。しかし、今日紹介するエジンバラ大学からの論文は、様々な試行を繰り返す完全な手作りで、グリオブラストーマで強い遺伝子の発現を誘導するスーパーエンハンサーを設計し、それを用いてガン増殖を抑えることに成功した研究で、この手作り感がフレッシュな気持ちにさせてくれる論文だ。タイトルは「Synthetic super-enhancers enable precision viral immunotherapy(合成スーパーエンハンサーは正確なウイルス免疫治療を可能にする)」で、4月8日 Nature にオンライン掲載された。

スーパーエンハンサーの研究は進んでいても、遺伝子発現になると自然のエンハンサーを借りてきて遺伝子発現を誘導することが普通だ。これはスーパーエンハンサーが距離的に離れているエンハンサー領域の協力により成り立っているためで、そのとき働いているシス領域を集めるということはそう簡単ではなかった。

この研究では細胞傷害遺伝子を発現させてグリオブラストーマ (GBM) を殺す方法の開発を最初から目指しており、使うアデノウイルスにスーパーエンハンサーのアンサンブルを集められる大きさとして160bpと決め、この大きさの中で利用できるエンハンサーを探索している。

グリオブラストーマのスーパーエンハンサーはSox2転写因子を核として構成されているので、まずSox2結合シス領域を特定し、それぞれを標識と結合させGBMに導入して発現を調べ、発現の高い32エンハンサー部位を詳しく調べている。すると全てでSox2結合部位に加えてSox9結合部位を含むことが明らかになり、スーパーエンハンサーはこれら2種類の転写因子の結合を核として形成されることを突き止める。

そこで、GBMSox2、Sox9 結合部位を解析して、強い遺伝子発現を誘導出来る領域に存在する様々な転写因子結合モチーフを合わせたエンハンサーを4種類設計し、これがスーパーエンハンサーとして働くかGBMで調べ、全てがGBM特異的スーパーエンハンサー活性を持つことを確認している。極めて手作り感の強い大変な仕事だ。

この中からSSE7と名付けたスーパーエンハンサーシス領域を選び、Sox2、Sox9 の結合を試験管内で調べると、Sox2、 Sox9 が揃ったときに一つにまとまった大きな複合体を形成すること、そしてこのスーパーエンハンサーが最も未熟で増殖力の強いGBMのみで働き、Sox2、Sox9 を核として、MAPキナーゼ経路で活性化される様々なエンハンサーをリクルートして働く、文字通りスーパーエンハンサーである事を確認する。

後は、患者さんから切除したGBMを用いて、アデノ随伴ウイルスベクター (AAV) に組み込んでGBM特異的に遺伝子発現を誘導出来るか確認した後、細胞障害性遺伝子を用いてGBM治療に使えるか調べている。いろいろ試行を繰り返した後、最終的SSE7にCMVウイルスプロモータ、そしてガンを傷害するHSV-TK遺伝子、そしてガンの周りに免疫を誘導するための IL-12 をつないだ遺伝子をAAVに詰めて、脳に移植したGBMに直接注射している。結果は上々で、強い細胞障害性と、ガン周囲の免疫誘導が起こり、ほぼ全てのマウスでガンを消滅させることに成功している。

結果は以上で、スーパーエンハンサーを用いることで、ガン特異的に強い遺伝子を発現させ、しかも周りの細胞にはほとんど影響のない、治療の難しいGBMの治療が可能になっている。臨床にもかなり近い結果で、手作り感とともに感心した。

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